これはおいしいお寿司
TOP
MAIN
OFFLINE
BLOG
No.2
ルールなきパプリカ
–結局ルールなきパプリカってなに
来月の授業予定が発表された日のことだった。
「え、あのシラバス見てマスシェの単位取ろうとした奴がいるって!?」
「え、あの『ルールなきパプリカ』としか書いてないシラバスを見て!?」
監督生はデュース、ジャックと空き教室で時間を潰していたときに、エースがマスターシェフの授業を受けることを知り、驚愕したのであった。
「そもそもパプリカにルールがあってたまるか」
理解できないルールに馴染みのないジャックが呆れたように頭を振った。
「パプリカにルールってあるのか……?」
ルールギッチギチ寮のデュースでさえも頭をひねっている。
「ハーツのトンデモルールってパプリカにまで影響を及ぼしてるの?」
監督生の当然とも言える質問にデュースは「なんそれこわ」と返した。
「ンンッ。まずさ、『ルールなきパプリカ』について文章を分解したりなんなりして考えてみよう」
監督生の提案にデュースはうなずき、ジャックは天を仰いだ。
『ルールなきパプリカ』
監督生がどこからともなく取り出したホワイトボードにキュッキュッと書く。
「この単語、何1つわかんないよねえ」
「……こいつの対義語って、ルールありのピーマンになるのか?」
しばしの沈黙をおいて、監督生は『ルールなきパプリカ』⇔『ルールありのピーマン』と書く。
ジャックの「ルールも逆にしろよ」という言葉は聞かなかったことにして。
「ピーマンにあって、パプリカにないもの。それがルール……」
監督生がぼそりとつぶやき、そこからたっぷり5分ほどの沈黙が流れた。
「……あのさ、女王の法律にピーマンについての記述があって、パプリカにはまったく記載されてないってことあったりしない?」
「監督生は僕が法律を全部覚えてると思ってるのか?」
「まさか。だから可能性の話だよ。つまり、法律書に記載のあるピーマンと、記載のないパプリカっていう意味の授業タイトルなわけ」
「なるほど……」
納得してしまったデュースに「なるほどじゃないが」とジャックが呆れる。
と。
カツリ、カツリと高らかなヒールの音が響き、寮服姿のリドルが教室を覗きこんだ。
「通りすがりに小耳に挟んだから言うけど……ピーマンとパプリカは別の品種だよ」
それだけ言って、またヒールの音を響かせて去って行った。
「あっ! ちっす!」
デュースは廊下に出て、90°に頭を下げてリドルの背中に挨拶した。
「え、じゃあピーマンはパプリカの対義語にならないってことか。でも法律について触れなかったってことは、パプリカにルールがあることは確定ってことでいいよね」
「いや、くだらなくて指摘しなかっただけなんじゃねえか」
「ふむふむ。なら一旦ピーマンから離れよ。対義語にはならないってことだし、言い出しっぺのデュースがすげえ苦い顔してる」
「すまん、ピーマンの味を思い出してた。最悪だ」
「馬鹿しかいねえ」
食べられないものを口に含んでしまったような顔をしたデュースと、天井のシミの数を数えているジャック、真剣な顔をしてホワイトボードに向き合う監督生がそこにいた。
「ンン、じゃあパプリカに戻ろう。ルールなきってことはルールがあることもないわけではないってことだ」
「監督生。僕には何を言ってるかさっぱりわからん」
「つまり、ルールあるパプリカがなければルールなきパプリカという単語は生まれないってことだよ」
「適当にそれっぽいこと言ってるだけじゃねえか」
「なるほど、ルールあるパプリカか……」
「正気に戻れよ2人とも」
天井のシミを数え終わり、窓の汚れを数え始めたジャックがぼそりと呟いた。
「リドルたゃがパプリカのルールに触れなかったことも踏まえると、パプリカにはルールがあることが明白だ。これが前提となる条件だ」
「確かにな。じゃあルールなきパプリカっていうのは今回だけの特例になるのか」
「そういうこと。次に考えなくちゃいけないのは、ルールありのパプリカとルールなきパプリカの違いだよ。これがさっぱりわからん。ので、少しずつ可能性を消してやるのさ、そう、消しゴムマジックで」
「消しゴムマジックやめろ。この前ジャミル先輩がアズールの野郎を消したばかりじゃねえか」
「ああ、あのなんだかんだあって消された伝説のCMか。バイパー先輩の自撮りは見応えがあったな」
先日、ジャミルが自撮りに映り込んだアズールを消すCMが学園内で話題になったばかりだった。
「まあそれはおいといてさ。1つずつ考えていこう。まず、普段食べてる学園の食材は厨房に用意されてるよね」
「そうだ。ただ、マスシェの場合は収穫作業も授業の一環として自分でやらないといけない」
この中で唯一マスターシェフの単位を取得しているデュースが頷く。
「だよね。だから、マスシェのために収穫するパプリカは普段食堂で食べているものと違うってことだ」
「なん、だと。そこに違いが……いや、っていうか僕は普段食べているものも全部マスシェと同じところで収穫していると思ってたぞ」
「普段から植物園に出入りしているジャックならわかるよね。いくら広いと言っても、植物園で栽培されている食材だけで生徒と教師全員の食料をまかなうことはできないと」
「お? ああ」
急に話を振られ、慌てて監督生に目を向ける。
「そうだな。一般的な植物園よりは広いが、自給自足のための畑としては狭すぎる。授業ではほかに鶏舎や厩舎、風車から食材を調達してくると聞いてるが、授業分は足りても全生徒分は不可能だろうな」
「そう。つまり、普段は外部から大量の食材を購入している、もしくは僕らが知らない土地を学園が持っていてそこで食材を作っているかのどちらかだと思う」
「そうか……あ、なるほど。じゃあマスシェで使うパプリカが特別ってことなのか!」
合点がいったようにデュースが目を輝かせた。
「そういうことだ! 僕が言いたいことによく気づいたね」
「よく気づいたねじゃねえんだよな」
「しかし、今回のパプリカはどこで収穫するんだ? 普通に考えたら植物園だと思うんだが」
「それがね、さっぱりわからんのだよ。デュースは経験済みだから知ってると思うんだけど、調達区域に植物園を指定されることもあれば、植物園温帯ゾーンを指定されることもある。しかも、過去の調達内容を見ても 各ゾーンで栽培されている食材たちは重複している」
「確かに。玉ねぎは温帯ゾーンでも亜熱帯ゾーンでも調達できるって聞いたことがあるぞ」
「なんで監督生が過去の調達区域知ってんだよ」
「アズールてゃに調べてもらった」
「対価はなんだ……いや、いい。聞かなかったことにする」
利口なジャックは口をつぐんだ。
「しかも、わざわざ学園の各地で調達してきた食材は購買部で買うことができるんだ。にんにく、砂糖、卵とかね。つまり、今回の授業ではパプリカをどこから調達してくるのか、現段階では何もわからないんだ」
「うーん。難しくなってきたな」
「でもわざわざ使うパプリカを指定してきたんだ、学園内で栽培されているということにしておこう。それにメイン食材を購買部で購入したことは今までないはずだしね」
「今思ったんだが、収穫できる場所が指定されたらそれはもう、ルールありのパプリカなんじゃないか?」
「馬鹿! デュース! やめて! ややこしくなる! 今必死に筋道立てて考えてんだからよお」
「あごめん……」
「つまり、どこでも収穫できるのがルールなきパプリカってことだな」
「ジャックも! 馬鹿! 僕なりの定義にヒビが入ってしまう」
「ヒビだらけの定義に何言ってんだ」
「ンン、とりあえず今のは聞かなかったことにしとこ。頭がわやになっていまうからね。頭の隅に置いといたら死んじゃうのでね」
「おう……おう?」
監督生は咳払いをして、話を仕切り直すことにした。
「で、学園内で収穫されるパプリカのところまで考えたんだった。まあ、どこかの寮って可能性もあるんだけどさ、パプリカって感じの寮ないよね」
「でもイグニと麺はすぐに結びつかなかったよな」
「ああ、イデアっちのカップ麺供出事件ね……でもパプリカってポムに備蓄されてる感じもないし、サバナに野菜が生えてるわけないし、ディアソに食べられるものがあるわけないし」
「ディアソムニアへの風評被害が酷すぎる」
リリアの被害に遭ったことのある監督生は、ディアソムニアへの偏見が大変強かった。
「まあ、そんなわけで今回の収穫される場所ってのが問題なんだよね。普通に考えたら植物園が可能性大なわけなんだけど。一旦植物園で収穫されることにしてさ、じゃあなんでそこのパプリカがルールなしなのか、だよ」
「植物園か……僕がそこで調達した食材に問題はなかったはずだ」
「それよ。ジャック、普段植物園で誰を見かける?」
「そうだな。まずレオナ先輩だろ、んでラギー先輩。あとはジェイドの野郎と……」
「なあ、ジャックってオクタに厳しいよな」
指を折って名前を挙げるジャックを遮り、デュースがふと思いついたように言った。
「それな」
「別にそんなことはねえよ。尊敬できる奴とできない奴がいるってだけだ」
「サバナの先輩って尊敬できるんやろか……」
ジャックは監督生の頭に拳を落とした。
「僕はハーツラビュルの先輩方みんな尊敬してるぞ!」
「お前は自分の上に立つ良さげな先輩なら誰でも懐くだろ」
「そんなことは、ない……ない?」
「あるだろ」
デュースは首を傾げ、ジャックはため息をついた。
「てかそんなことはどうでもいいんだよ。植物園で見かける人の話だよ」
「そうだったな。あとはトレイ先輩とルーク先輩あたりか」
「あ、そこだよ! そこそこ! その2人は部活で植物園に出入りして薬草などを扱ってる。なら植物園に植わってるものすべてに関わることが可能だ」
「つ、つまり……今回のパプリカはサ部が改造した可能性がある……?」
「そうなんだ。普段僕らが食べているパプリカの基準を無視した、そう、ルールなきパプリカってことだ。怖いね」
「怖いのはお前らの妄想力だ」
監督生はペンを握りしめ、真剣な表情でデュースに頷いてみせた。
「パプリカの調達区域が植物園だったら、この説が濃厚になってくるんだ」
「いや、どう考えたってパプリカは植物園だろうが」
「あとね、今思いついたんだけど」
「え、サ部黒幕説以外にも何かあるのか!」
「デュース、その話トレイ先輩の前で言えるか?」
「ルールなきパプリカってルール亡きパプリカとも言えるよね」
「言えないが」
「以前、パプリカにはルールがあった。だが、今はルールがなくなってしまった……そんな悲劇を思いついたんだ」
「思いついちゃったかあ」
ジャックが脱力してずるずると椅子から滑り落ちた。
「一体誰がパプリカからルールを奪ったんだ。許せない!」
一方、デュースは正義の炎を瞳に宿していた。
「ルールといえばハーツラビュル。これは満場一致の理だよね。つまり、パプリカのルールはハーツが管理していたんだ」
「僕は知らないがきっとそんな法律はあるだろう」
ウンウンとデュースは頷く。
「でも、誰かがパプリカにまつわる法律を撤廃したんだ。誰か……? ハーツからルールを奪える人は? 法律の管理者、リドルたゃに反旗を翻す人は?」
「ま、まさか……!」
『パプリカから奪われたルール』と書かれたホワイトボードを叩く監督生、手に汗握るデュース。
「エースだ」
重々しく監督生は友人の名を出した。
デュースは握りしめた拳を机にたたきつけた。
「エースの馬鹿が……またローズハート寮長に逆らったというのか……!」
「ああ。だから今回のマスターシェフ『ルールなきパプリカ』に名乗りを上げたというわけだ。ルールを奪った張本人として……」
「あのときと同じように、エースにも理由があるはずだ! きっと、理不尽な法律に縛られるパプリカを哀れんで……」
「エースが人を哀れむ男だと思うか?」
ハッと鼻で笑う監督生に、デュースは悔し涙を浮かべる。
「くっ……エースが、ハーツを裏切るなんて……」
「そこまでは言ってねえと思う」
ジャックはどこまでも冷静だった。
「デュース、僕らは見守ることしかできないよ。自分の手で作り上げた『ルール亡きパプリカ』と向き合うエースを……」
監督生は優しく、デュースの肩に手を置いた。
「そうだよな……エースが、助けを求めてきたら一緒に悩んでやるか。それがマブってもんだからな」
「ああ。じゃ、エース誘って飯でも食べるか」
「おう!」
元気を出したデュースは立ち上がり、監督生の手を握りしめた。
そして2人は教室を出て行く。
ジャックは少し遅れて立ち上がり、本日最大のため息をついた。
「イデア先輩も履修するってこと忘れてそうだな。さて、パプリカの花言葉や伝承でも調べてみるか……」
なんだかんだ監督生に毒されつつあるのであった。
スケ発表後にフォロワーと話してた内容を書き起こしただけ
Pixiv投稿2023.4.29
CPなし
,
SS
2026.1.14
No.2
favorite
いいね
いいねありがとうございます!
戻る
ユーザ「えんがわ」の投稿だけを見る
(※
時系列順で見る
)
この投稿と同じカテゴリに属する投稿:
カテゴリ「CPなし」の投稿だけを見る
(※
時系列順で見る
)
カテゴリ「SS」の投稿だけを見る
(※
時系列順で見る
)
この投稿日時に関連する投稿:
2026年1月14日の投稿だけを見る
(※
時系列順で見る
)
2026年1月の投稿だけを見る
(※
時系列順で見る
)
2026年の投稿だけを見る
(※
時系列順で見る
)
全年1月14日の投稿をまとめて見る
(※
時系列順で見る
)
全年全月14日の投稿をまとめて見る
(※
時系列順で見る
)
この投稿に隣接する前後3件ずつをまとめて見る
この投稿を再編集または削除する
« No.1
No.3 »
初期表示に戻る
来月の授業予定が発表された日のことだった。
「え、あのシラバス見てマスシェの単位取ろうとした奴がいるって!?」
「え、あの『ルールなきパプリカ』としか書いてないシラバスを見て!?」
監督生はデュース、ジャックと空き教室で時間を潰していたときに、エースがマスターシェフの授業を受けることを知り、驚愕したのであった。
「そもそもパプリカにルールがあってたまるか」
理解できないルールに馴染みのないジャックが呆れたように頭を振った。
「パプリカにルールってあるのか……?」
ルールギッチギチ寮のデュースでさえも頭をひねっている。
「ハーツのトンデモルールってパプリカにまで影響を及ぼしてるの?」
監督生の当然とも言える質問にデュースは「なんそれこわ」と返した。
「ンンッ。まずさ、『ルールなきパプリカ』について文章を分解したりなんなりして考えてみよう」
監督生の提案にデュースはうなずき、ジャックは天を仰いだ。
『ルールなきパプリカ』
監督生がどこからともなく取り出したホワイトボードにキュッキュッと書く。
「この単語、何1つわかんないよねえ」
「……こいつの対義語って、ルールありのピーマンになるのか?」
しばしの沈黙をおいて、監督生は『ルールなきパプリカ』⇔『ルールありのピーマン』と書く。
ジャックの「ルールも逆にしろよ」という言葉は聞かなかったことにして。
「ピーマンにあって、パプリカにないもの。それがルール……」
監督生がぼそりとつぶやき、そこからたっぷり5分ほどの沈黙が流れた。
「……あのさ、女王の法律にピーマンについての記述があって、パプリカにはまったく記載されてないってことあったりしない?」
「監督生は僕が法律を全部覚えてると思ってるのか?」
「まさか。だから可能性の話だよ。つまり、法律書に記載のあるピーマンと、記載のないパプリカっていう意味の授業タイトルなわけ」
「なるほど……」
納得してしまったデュースに「なるほどじゃないが」とジャックが呆れる。
と。
カツリ、カツリと高らかなヒールの音が響き、寮服姿のリドルが教室を覗きこんだ。
「通りすがりに小耳に挟んだから言うけど……ピーマンとパプリカは別の品種だよ」
それだけ言って、またヒールの音を響かせて去って行った。
「あっ! ちっす!」
デュースは廊下に出て、90°に頭を下げてリドルの背中に挨拶した。
「え、じゃあピーマンはパプリカの対義語にならないってことか。でも法律について触れなかったってことは、パプリカにルールがあることは確定ってことでいいよね」
「いや、くだらなくて指摘しなかっただけなんじゃねえか」
「ふむふむ。なら一旦ピーマンから離れよ。対義語にはならないってことだし、言い出しっぺのデュースがすげえ苦い顔してる」
「すまん、ピーマンの味を思い出してた。最悪だ」
「馬鹿しかいねえ」
食べられないものを口に含んでしまったような顔をしたデュースと、天井のシミの数を数えているジャック、真剣な顔をしてホワイトボードに向き合う監督生がそこにいた。
「ンン、じゃあパプリカに戻ろう。ルールなきってことはルールがあることもないわけではないってことだ」
「監督生。僕には何を言ってるかさっぱりわからん」
「つまり、ルールあるパプリカがなければルールなきパプリカという単語は生まれないってことだよ」
「適当にそれっぽいこと言ってるだけじゃねえか」
「なるほど、ルールあるパプリカか……」
「正気に戻れよ2人とも」
天井のシミを数え終わり、窓の汚れを数え始めたジャックがぼそりと呟いた。
「リドルたゃがパプリカのルールに触れなかったことも踏まえると、パプリカにはルールがあることが明白だ。これが前提となる条件だ」
「確かにな。じゃあルールなきパプリカっていうのは今回だけの特例になるのか」
「そういうこと。次に考えなくちゃいけないのは、ルールありのパプリカとルールなきパプリカの違いだよ。これがさっぱりわからん。ので、少しずつ可能性を消してやるのさ、そう、消しゴムマジックで」
「消しゴムマジックやめろ。この前ジャミル先輩がアズールの野郎を消したばかりじゃねえか」
「ああ、あのなんだかんだあって消された伝説のCMか。バイパー先輩の自撮りは見応えがあったな」
先日、ジャミルが自撮りに映り込んだアズールを消すCMが学園内で話題になったばかりだった。
「まあそれはおいといてさ。1つずつ考えていこう。まず、普段食べてる学園の食材は厨房に用意されてるよね」
「そうだ。ただ、マスシェの場合は収穫作業も授業の一環として自分でやらないといけない」
この中で唯一マスターシェフの単位を取得しているデュースが頷く。
「だよね。だから、マスシェのために収穫するパプリカは普段食堂で食べているものと違うってことだ」
「なん、だと。そこに違いが……いや、っていうか僕は普段食べているものも全部マスシェと同じところで収穫していると思ってたぞ」
「普段から植物園に出入りしているジャックならわかるよね。いくら広いと言っても、植物園で栽培されている食材だけで生徒と教師全員の食料をまかなうことはできないと」
「お? ああ」
急に話を振られ、慌てて監督生に目を向ける。
「そうだな。一般的な植物園よりは広いが、自給自足のための畑としては狭すぎる。授業ではほかに鶏舎や厩舎、風車から食材を調達してくると聞いてるが、授業分は足りても全生徒分は不可能だろうな」
「そう。つまり、普段は外部から大量の食材を購入している、もしくは僕らが知らない土地を学園が持っていてそこで食材を作っているかのどちらかだと思う」
「そうか……あ、なるほど。じゃあマスシェで使うパプリカが特別ってことなのか!」
合点がいったようにデュースが目を輝かせた。
「そういうことだ! 僕が言いたいことによく気づいたね」
「よく気づいたねじゃねえんだよな」
「しかし、今回のパプリカはどこで収穫するんだ? 普通に考えたら植物園だと思うんだが」
「それがね、さっぱりわからんのだよ。デュースは経験済みだから知ってると思うんだけど、調達区域に植物園を指定されることもあれば、植物園温帯ゾーンを指定されることもある。しかも、過去の調達内容を見ても 各ゾーンで栽培されている食材たちは重複している」
「確かに。玉ねぎは温帯ゾーンでも亜熱帯ゾーンでも調達できるって聞いたことがあるぞ」
「なんで監督生が過去の調達区域知ってんだよ」
「アズールてゃに調べてもらった」
「対価はなんだ……いや、いい。聞かなかったことにする」
利口なジャックは口をつぐんだ。
「しかも、わざわざ学園の各地で調達してきた食材は購買部で買うことができるんだ。にんにく、砂糖、卵とかね。つまり、今回の授業ではパプリカをどこから調達してくるのか、現段階では何もわからないんだ」
「うーん。難しくなってきたな」
「でもわざわざ使うパプリカを指定してきたんだ、学園内で栽培されているということにしておこう。それにメイン食材を購買部で購入したことは今までないはずだしね」
「今思ったんだが、収穫できる場所が指定されたらそれはもう、ルールありのパプリカなんじゃないか?」
「馬鹿! デュース! やめて! ややこしくなる! 今必死に筋道立てて考えてんだからよお」
「あごめん……」
「つまり、どこでも収穫できるのがルールなきパプリカってことだな」
「ジャックも! 馬鹿! 僕なりの定義にヒビが入ってしまう」
「ヒビだらけの定義に何言ってんだ」
「ンン、とりあえず今のは聞かなかったことにしとこ。頭がわやになっていまうからね。頭の隅に置いといたら死んじゃうのでね」
「おう……おう?」
監督生は咳払いをして、話を仕切り直すことにした。
「で、学園内で収穫されるパプリカのところまで考えたんだった。まあ、どこかの寮って可能性もあるんだけどさ、パプリカって感じの寮ないよね」
「でもイグニと麺はすぐに結びつかなかったよな」
「ああ、イデアっちのカップ麺供出事件ね……でもパプリカってポムに備蓄されてる感じもないし、サバナに野菜が生えてるわけないし、ディアソに食べられるものがあるわけないし」
「ディアソムニアへの風評被害が酷すぎる」
リリアの被害に遭ったことのある監督生は、ディアソムニアへの偏見が大変強かった。
「まあ、そんなわけで今回の収穫される場所ってのが問題なんだよね。普通に考えたら植物園が可能性大なわけなんだけど。一旦植物園で収穫されることにしてさ、じゃあなんでそこのパプリカがルールなしなのか、だよ」
「植物園か……僕がそこで調達した食材に問題はなかったはずだ」
「それよ。ジャック、普段植物園で誰を見かける?」
「そうだな。まずレオナ先輩だろ、んでラギー先輩。あとはジェイドの野郎と……」
「なあ、ジャックってオクタに厳しいよな」
指を折って名前を挙げるジャックを遮り、デュースがふと思いついたように言った。
「それな」
「別にそんなことはねえよ。尊敬できる奴とできない奴がいるってだけだ」
「サバナの先輩って尊敬できるんやろか……」
ジャックは監督生の頭に拳を落とした。
「僕はハーツラビュルの先輩方みんな尊敬してるぞ!」
「お前は自分の上に立つ良さげな先輩なら誰でも懐くだろ」
「そんなことは、ない……ない?」
「あるだろ」
デュースは首を傾げ、ジャックはため息をついた。
「てかそんなことはどうでもいいんだよ。植物園で見かける人の話だよ」
「そうだったな。あとはトレイ先輩とルーク先輩あたりか」
「あ、そこだよ! そこそこ! その2人は部活で植物園に出入りして薬草などを扱ってる。なら植物園に植わってるものすべてに関わることが可能だ」
「つ、つまり……今回のパプリカはサ部が改造した可能性がある……?」
「そうなんだ。普段僕らが食べているパプリカの基準を無視した、そう、ルールなきパプリカってことだ。怖いね」
「怖いのはお前らの妄想力だ」
監督生はペンを握りしめ、真剣な表情でデュースに頷いてみせた。
「パプリカの調達区域が植物園だったら、この説が濃厚になってくるんだ」
「いや、どう考えたってパプリカは植物園だろうが」
「あとね、今思いついたんだけど」
「え、サ部黒幕説以外にも何かあるのか!」
「デュース、その話トレイ先輩の前で言えるか?」
「ルールなきパプリカってルール亡きパプリカとも言えるよね」
「言えないが」
「以前、パプリカにはルールがあった。だが、今はルールがなくなってしまった……そんな悲劇を思いついたんだ」
「思いついちゃったかあ」
ジャックが脱力してずるずると椅子から滑り落ちた。
「一体誰がパプリカからルールを奪ったんだ。許せない!」
一方、デュースは正義の炎を瞳に宿していた。
「ルールといえばハーツラビュル。これは満場一致の理だよね。つまり、パプリカのルールはハーツが管理していたんだ」
「僕は知らないがきっとそんな法律はあるだろう」
ウンウンとデュースは頷く。
「でも、誰かがパプリカにまつわる法律を撤廃したんだ。誰か……? ハーツからルールを奪える人は? 法律の管理者、リドルたゃに反旗を翻す人は?」
「ま、まさか……!」
『パプリカから奪われたルール』と書かれたホワイトボードを叩く監督生、手に汗握るデュース。
「エースだ」
重々しく監督生は友人の名を出した。
デュースは握りしめた拳を机にたたきつけた。
「エースの馬鹿が……またローズハート寮長に逆らったというのか……!」
「ああ。だから今回のマスターシェフ『ルールなきパプリカ』に名乗りを上げたというわけだ。ルールを奪った張本人として……」
「あのときと同じように、エースにも理由があるはずだ! きっと、理不尽な法律に縛られるパプリカを哀れんで……」
「エースが人を哀れむ男だと思うか?」
ハッと鼻で笑う監督生に、デュースは悔し涙を浮かべる。
「くっ……エースが、ハーツを裏切るなんて……」
「そこまでは言ってねえと思う」
ジャックはどこまでも冷静だった。
「デュース、僕らは見守ることしかできないよ。自分の手で作り上げた『ルール亡きパプリカ』と向き合うエースを……」
監督生は優しく、デュースの肩に手を置いた。
「そうだよな……エースが、助けを求めてきたら一緒に悩んでやるか。それがマブってもんだからな」
「ああ。じゃ、エース誘って飯でも食べるか」
「おう!」
元気を出したデュースは立ち上がり、監督生の手を握りしめた。
そして2人は教室を出て行く。
ジャックは少し遅れて立ち上がり、本日最大のため息をついた。
「イデア先輩も履修するってこと忘れてそうだな。さて、パプリカの花言葉や伝承でも調べてみるか……」
なんだかんだ監督生に毒されつつあるのであった。
スケ発表後にフォロワーと話してた内容を書き起こしただけ
Pixiv投稿2023.4.29