これはおいしいお寿司
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No.56
ありふれた名前のただ1人
-2024.10.27で出していた無配
「随分とハロウィンを満喫してたみたいっすね」
ハロウィンの期間中、寮長副寮長を含め複数名の行方不明者が発生したが、学園長をはじめとする教師陣や各寮の良心たちがどうにか取りまとめ、例年通りのハロウィンを過ごすことができた。
行方不明者もハロウィンの翌日に全員発見され、学園は落ち着きを取り戻した。
そしてハロウィンから数日後。いつも通りレオナは、休日の日が高いうちから自室のベッドで惰眠を貪っていた。
が、ドアが壊れそうな勢いのノックが眠気を吹っ飛ばした。
「なんだ、ジャックか」
レオナは一瞬体を起こし、ジャックがずかずかと室内に入ってくるのを見てもう一度寝転んだ。
「なんだってなんすか。こっちは大変だったのに、ねぎらいもなしに昼寝っすか」
機嫌の悪さを隠そうともしないジャックは、眉間に深い皺を刻んでレオナを見下ろした。
「ねぎらい……ああ、ハロウィンのことなら声かけて肉を振る舞っただろ」
「レオナ先輩たちも向こうで苦労したって聞いてたんで、こっちで起きたトラブルは飲み込もうと思ってたんすけど」
レオナは学園の一大イベントであるハロウィンの準備や当日の催しに参加できなかったからと、寮生の誕生日に用意しているものより豪勢な肉料理を盛大に振る舞った。寮生はその計らいに感動し、ハロウィン期間の苦労を水に流し、この話は終わったはずだった。
「先輩たちは随分とあっちで楽しんでたらしいっすね」
監督生とエペルとセベクに聞きました、とジャックは視線をさらに尖らせた。
何をそんなに睨むことがあるのかと、レオナは首を傾げて見返す。
「お前たちもなんだかんだハロウィンを楽しんだんじゃねえか?」
「……身元の知れない人と知らない街を冒険したとか」
「スカリーとハロウィンタウンを彷徨って、帰る方法を探してたんだよ」
「珍しい料理や音楽を食べたり聴いたりしたとか」
「センスの合わねえ食い物と音楽に頭を抱えてただけだ」
「……背の高い不思議なハロウィンの人とか、白い布みたいな犬がいたって」
「ああ、スケリントンとゼロか」
そこでむっつりとジャックは黙り込んだ。
自分の知らないところで楽しんでいた――決して楽しいことなどなかったと、レオナは帰ってきてから何度もジャックに言っていた――ことに腹を立てているように見えたが、どうやら違うらしい。
「そいつらと……仲良くなったんすか」
「オトモダチになるわけねえだろ。何言ってんだ。お前のオトモダチは仲良くなったのかもしれないが」
スケリントンとゼロをどうして気にしているのかわからないが、再会することもそうそうありえないのだから、気にするだけ無駄だと言っても、ジャックの表情は変わらなかった。
いや、よく見てみれば、どこか不安そうな雰囲気を怒りで取り繕っているようだ。
ハロウィンを不在にした怒りならともかく、ジャックが不安になる理由はない。
言いたいことがあるならさっさと言えと、レオナはジャックを見つめた。
「別に。そっちのジャックや犬ッコロとか、別に気にしてないんで」
ぼそりとジャックが小さく呟いた。
どういう意味かすぐに理解できず、聞き返そうと思ったが、口をへの字に曲げている様子から、二度目は言ってくれそうにない。
「そっちのジャックってスケリントンのことで、犬ッコロはゼロ……ああ」
ジャックの言葉を整理しようと声を出してみると、口に馴染んだ単語にようやく合点がいった。
「一丁前に可愛い奴だな」
「……別に気にしてないって言いましたけど」
レオナ以外はジャック・スケリントンのことをジャックと呼んでいたので、一年生からハロウィン・タウンの話を聞けば〝ジャック〟の名前は頻出するだろう。ゼロという犬の話も当然出たはずだ。
「犬って言うと、狼だって言い返すのにな」
「だから気にしてねえって」
先ほどから目が合わない巨大な狼が、とてつもなく可愛くて仕方がない。
「俺の名前だって、教科書の例文で出てくるくらいありふれた名前だし、別に」
「ジャック」
言い訳のような言葉を遮ってレオナは名前を呼ぶ。
「ジャック」
二度呼ぶと、ようやく金色の目がレオナに向いた。
「俺のジャックはお前だけだろ」
今までも、これからも。
指先で呼び寄せれば、尻尾を大きく振りながらじれったい動きでジャックはレオナに近づく。
じんわりと近づいてきたところで、レオナはジャックの手を捕まえた。
嫉妬深くて独占欲を隠せない子どもは、どうしたらそのままでいてくれるだろうか。
お前一人だけだと懇々と言って聞かせるのは、とても面倒でとても楽しい。
手を引き寄せて、ジャックの鼻先に息を吹きかけると、面白いくらいに顔が赤くなる。
ジャックは顔を背けて口を開いた。
「――ところで、トレイ先輩にマレウス先輩との仲を取り持たせたって聞いたんですけど」
「……」
「いい年した二人が、何やらせてんすか」
これ以上説教されてたまるかと、不本意ながらジャックの口を優しく塞いた。
頒布2024.10.27
レオジャク
,
SS
2026.1.15
No.56
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「随分とハロウィンを満喫してたみたいっすね」
ハロウィンの期間中、寮長副寮長を含め複数名の行方不明者が発生したが、学園長をはじめとする教師陣や各寮の良心たちがどうにか取りまとめ、例年通りのハロウィンを過ごすことができた。
行方不明者もハロウィンの翌日に全員発見され、学園は落ち着きを取り戻した。
そしてハロウィンから数日後。いつも通りレオナは、休日の日が高いうちから自室のベッドで惰眠を貪っていた。
が、ドアが壊れそうな勢いのノックが眠気を吹っ飛ばした。
「なんだ、ジャックか」
レオナは一瞬体を起こし、ジャックがずかずかと室内に入ってくるのを見てもう一度寝転んだ。
「なんだってなんすか。こっちは大変だったのに、ねぎらいもなしに昼寝っすか」
機嫌の悪さを隠そうともしないジャックは、眉間に深い皺を刻んでレオナを見下ろした。
「ねぎらい……ああ、ハロウィンのことなら声かけて肉を振る舞っただろ」
「レオナ先輩たちも向こうで苦労したって聞いてたんで、こっちで起きたトラブルは飲み込もうと思ってたんすけど」
レオナは学園の一大イベントであるハロウィンの準備や当日の催しに参加できなかったからと、寮生の誕生日に用意しているものより豪勢な肉料理を盛大に振る舞った。寮生はその計らいに感動し、ハロウィン期間の苦労を水に流し、この話は終わったはずだった。
「先輩たちは随分とあっちで楽しんでたらしいっすね」
監督生とエペルとセベクに聞きました、とジャックは視線をさらに尖らせた。
何をそんなに睨むことがあるのかと、レオナは首を傾げて見返す。
「お前たちもなんだかんだハロウィンを楽しんだんじゃねえか?」
「……身元の知れない人と知らない街を冒険したとか」
「スカリーとハロウィンタウンを彷徨って、帰る方法を探してたんだよ」
「珍しい料理や音楽を食べたり聴いたりしたとか」
「センスの合わねえ食い物と音楽に頭を抱えてただけだ」
「……背の高い不思議なハロウィンの人とか、白い布みたいな犬がいたって」
「ああ、スケリントンとゼロか」
そこでむっつりとジャックは黙り込んだ。
自分の知らないところで楽しんでいた――決して楽しいことなどなかったと、レオナは帰ってきてから何度もジャックに言っていた――ことに腹を立てているように見えたが、どうやら違うらしい。
「そいつらと……仲良くなったんすか」
「オトモダチになるわけねえだろ。何言ってんだ。お前のオトモダチは仲良くなったのかもしれないが」
スケリントンとゼロをどうして気にしているのかわからないが、再会することもそうそうありえないのだから、気にするだけ無駄だと言っても、ジャックの表情は変わらなかった。
いや、よく見てみれば、どこか不安そうな雰囲気を怒りで取り繕っているようだ。
ハロウィンを不在にした怒りならともかく、ジャックが不安になる理由はない。
言いたいことがあるならさっさと言えと、レオナはジャックを見つめた。
「別に。そっちのジャックや犬ッコロとか、別に気にしてないんで」
ぼそりとジャックが小さく呟いた。
どういう意味かすぐに理解できず、聞き返そうと思ったが、口をへの字に曲げている様子から、二度目は言ってくれそうにない。
「そっちのジャックってスケリントンのことで、犬ッコロはゼロ……ああ」
ジャックの言葉を整理しようと声を出してみると、口に馴染んだ単語にようやく合点がいった。
「一丁前に可愛い奴だな」
「……別に気にしてないって言いましたけど」
レオナ以外はジャック・スケリントンのことをジャックと呼んでいたので、一年生からハロウィン・タウンの話を聞けば〝ジャック〟の名前は頻出するだろう。ゼロという犬の話も当然出たはずだ。
「犬って言うと、狼だって言い返すのにな」
「だから気にしてねえって」
先ほどから目が合わない巨大な狼が、とてつもなく可愛くて仕方がない。
「俺の名前だって、教科書の例文で出てくるくらいありふれた名前だし、別に」
「ジャック」
言い訳のような言葉を遮ってレオナは名前を呼ぶ。
「ジャック」
二度呼ぶと、ようやく金色の目がレオナに向いた。
「俺のジャックはお前だけだろ」
今までも、これからも。
指先で呼び寄せれば、尻尾を大きく振りながらじれったい動きでジャックはレオナに近づく。
じんわりと近づいてきたところで、レオナはジャックの手を捕まえた。
嫉妬深くて独占欲を隠せない子どもは、どうしたらそのままでいてくれるだろうか。
お前一人だけだと懇々と言って聞かせるのは、とても面倒でとても楽しい。
手を引き寄せて、ジャックの鼻先に息を吹きかけると、面白いくらいに顔が赤くなる。
ジャックは顔を背けて口を開いた。
「――ところで、トレイ先輩にマレウス先輩との仲を取り持たせたって聞いたんですけど」
「……」
「いい年した二人が、何やらせてんすか」
これ以上説教されてたまるかと、不本意ながらジャックの口を優しく塞いた。
頒布2024.10.27