これはおいしいお寿司

No.63

香り

-2025.3.16で出していた無配

 鏡の前で、慣れない長髪とジャックは格闘していた。
「今日もやってんなァ」
 顔をしかめて一生懸命髪を梳っているジャックを見て、洗面室に入ってきたレオナが笑った。
「ジャミル先輩みたいな髪になるまで手入れしろってラギー先輩が言うから、仕方なく」
 やりたくてやっているわけではないと、ジャックは口を尖らせた。
「ジャミル先輩のアレは絶対遺伝っすよ」
 どれだけ手入れをしようと、ツヤッツヤのピッカピカになるわけがない。
「頭が重いし背中は熱がこもるし。結ぶのは似合わねえし。ただでさえ寝癖がつきやすいってのに」
 今が春でよかったと、次から次へと愚痴がこぼれる。
「ランタン作ってもらった借りがあるから、嫌とは言えねえし」
 根元にブラシを入れ、毛先までよいしょと滑らせる。かなりの重労働だ。
 リドルのように学園に戻る前にさっさと切ってしまえばよかったが、あのときはリドルの思い切りの良さに驚いて、そのまま帰ってきてしまった。
「それで俺のシャンプーを使ってるってわけか」
 にやりと笑うレオナと鏡越しに目が合う。
「ラギー先輩が高いやつ使えってくれたんすけど……もしかしてぬす、無断で借りてきたやつっすか」
「ラギーからは何も聞いてねえが。どうも俺の縄張り外で俺の匂いがすると思ったら」
「あ、す、すみません、残ってるやつ返します!」
 ジャックは顔を真っ青にして、振り返った。レオナの期限は悪く成さそうだが、勝手に借りてしまったのであれば、返さねば。
「いや、いい。実家から大量に送られてきて埃被ってたやつだ。ラギーもわかって持ち出したんだろ」
「そうですか。でも」
「それより、お前ブラッシング下手だな。貸せ」
 ジャックの言葉を遮ったレオナにブラシを奪われた。
「力任せにやると髪がちぎれるだけだ。尻尾と同じく丁寧に梳かせ」
 レオナに前を向かされ、そのまま優しく髪を梳かされる。
 慌ててブラシを取り戻そうとするが、動くなと頭を掴まれた。
「ミルクとかオイルも使えよ。ラギーは……そこまで気にするタチじゃねえか」
 レオナが恐らく寮長室からボトルを飛ばしてくるのを、黙って鏡越しに眺める。
 ぺちゃぺちゃとなんらかの液体を毛先中心に馴染ませて、櫛で整え、レオナは満足げに息を吐いた。
 たっぷり字間を使ってレオナに世話された髪は、するりとまとまりを見せていた。
「なんか……落ち着かないっす」
 周囲がレオナの香りで溢れている。シャンプーだけでも落ち着かなかったのに、オイルまで使うといつでもレオナが近くにいる錯覚に陥りそうだ。
 レオナは鼻をスンと鳴らし、「次はボディソープも同じやつにするか」とジャックの髪を撫でた。
 それはさすがに勘弁してほしいと、頬を染めてジャックは呟いた。




頒布2025.3.16

レオジャク,SS

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