これはおいしいお寿司

No.69

二度寝

-起きて!

 ぱちり。
 ジャックはいつも通りの時間に目を覚ました。隣でぐっすりと眠っているレオナを起こさないように、五分後に鳴るアラームを止める。
 そして、いつも通りジャックを抱きしめているレオナの腕をそっと剥がして起き上がろうとした。
 が。
 動かない。
 レオナの腕はがっちりとジャックに絡みつき、離れようとしなかった。いつもは多少の重みはあれど、すんなり持ち上がるのに。いつの間にかレオナの腕の筋肉が増えたのだろうか。
 ヴィルとの約束の時間が近づいてくる。
 ジャックは焦って、レオナが起きるかもしれないと思いつつ強引に腕を引っ張った。
 が、努力虚しくレオナの腕はびくともしなかった。むしろ、ベッドを抜け出そうとするジャックを無意識に引き寄せる腕の力は強まり、足までもジャックを絡め取る。
 今までにないレオナの頑丈な檻に、ジャックは起き上がることを諦めた。
 どうにか腕を伸ばして枕元のスマホを手に取り、ヴィルに走りに行けないことを連絡する。
 そして、抱き枕よろしくレオナの腕の中に大人しく収まった。
 レオナの腕も足も、ジャックを痛いくらいに締めつけてくる。ぐりぐりと額をジャックの胸元にこすりつけてくる様子は幼子のようで。
 滅多に見られないレオナの甘えに、こんな日もいいかとジャックは目をつむった。

 体を揺さぶられる感覚と、自分の名前を呼ぶレオナの声にゆっくりと意識が浮上する。
「い……おい、ジャック」
「ん……」
 光がまぶたを通り抜けてくる。
 二度寝からの起床は辛く、ジャックは目をつむったままレオナに腕を回して眩しさから逃れようと胸元に顔をうずめた。レオナの香りに包まれ、もう一度眠りに落ちそうになる。
「ジャック、朝だ」
「ん」
 レオナに軽く背中を叩かれるが、ジャックはうつらうつらとしながら首をゆるく横に振った。
「授業に遅れるぞ」
「……んん」
 もう少し眠っていたいのに、少しずつ頭がクリアになっていく。
 ぎゅう、とレオナを抱きしめて、起きたくないとぼんやり思う。
「いつも俺を置いて登校している時間なのに、今日は随分とのんびりじゃねえか。走りに行かなかったのか?」
 レオナは珍しくしゃっきり目覚めているようで、覚醒しきった声でジャックに話しかけてくる。
「ん……レオナ先輩の腕が重くって」
 レオナに抱きついたままジャックは答えた。
「ああ……今日は寝てたな……」
 レオナのぽつりとした独り言に、ジャックはゆるく相槌を打ってから、ぽやぽやした脳みそでその言葉を反芻した。そして、とある単語に引っかかる。
「今日は、って今までは起きてたんすか?」
「まあな」
 レオナの返事にがばと起き上がり、ジャックは信じられないと言わんばかりにレオナを見つめた。
「ずっと寝たふりしてたんすか?」
「そんな言い方をするなよ。うとうとしているくらいだ」
 レオナは悪びれる様子もなく、しれっと言う。
「いつも俺が起きる時間に起きていれば、朝の授業に間に合うのに! 朝練とか! 明日から一緒に走りませんか?」
「あんなじいさんみたいな時間から起きていられるか。ほら、さっさと支度をして登校するぞ」
「じいさんみたいなって、ヴィル先輩のこともじいさん扱いすることに――ってこんな時間じゃないっすか!」
 ジャックはスマホの時計を見て、慌ててベッドを飛び出した。ついで、ばたばたと制服に着替えている様子をベッドで眺めているレオナを急かす。
「レオナ先輩も準備しねえと」
「俺は今日一限ねえから」
「それ、今日休んだらまずい授業が一限にないって意味っすよね? 授業自体はあるんすよね? ラギー先輩にレオナ先輩の時間割もらってるんで知ってますよ」
「説教していると遅刻するぞ」
 ジャックの小言も意に介さず、さっさと行けとレオナは手をひらひら振った。
 本当は引きずってでもレオナと登校したかったが、これ以上ここにいると完全に遅刻してしまう。
 ジャックは諦めて、レオナの額に軽くキスをした。
「次からは、一緒に起きるか俺が部屋に戻るかどっちか選んでくださいね」
「前向きに検討する」
 レオナから頬にキスをもらい、慌ただしくレオナの部屋を出て行く。
 できれば明日からもレオナの隣で眠りたいから、一緒に起きてほしい。
 そんな無茶な願いを胸に抱きつつ、ジャックは寮の廊下を走り出した。




Twitter投稿2025.10.4

レオジャク,SS

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