これはおいしいお寿司

No.53

配信

-2023.8.20で出していた無配

ジャック・ハウル 二年生 副寮長
  ラギーのサポートをしているが、いろいろと押しつけられ実質寮長となっている。

 ラギー・ブッチ 三年生 寮長
 「アンタ以外の奴の指示には従わねえ、順番的に俺が寮長になるのは納得がいかねえ」とジャックに駄々をこねられたため寮長に就任。が、すべてをジャックに任せている。寮長の仕事は金にならん。

 レオナ・キングスカラー 四年生
  無事に進級し、大好きな後輩を置いて研修に旅立った。





 夕食を終え、ジャックは自室で机に向かい、マジカメを起動させた。配信モードに設定し、画面に顔が映るようスマホの位置を調整する。
 ノートを広げて重要事項に赤ペンを入れて入念に読み返す。そして、配信ボタンを押した。
「あー、あー。月初の定例報告だ。聞こえているか?」
 すると、画面内にサムズアップのスタンプや「聞こえてる」などのコメントがぽこぽこと表示され、ふわりと消えていった。
「問題ないようだな。じゃあ報告を始める」
 年度が移り、新体制となったサバナクローでは実験として月初めに寮長会議や寮内会議の結果を、寮全体に報告する時間を設けていた。理由としては、カリスマ的存在のレオナがいなくなり、一声で必要な連絡を末端まで回すことができなくなってしまったことが挙げられる。文書を配ってもすぐ紙飛行機にしたり、鞄の中でしわくちゃにしてしまう寮生には、誰もが持っているマジカメの配信機能で連絡するのがよかろうという結論に達した。
「ええと、先週の寮長会議でだが、うちの寮生による喧嘩が増えているとハーツラビュルやポムフィオーレから苦情が来ている。やめろとは言わねえけど、目立たないようにすること」
 配信しているのはジャックの私用アカウントだが、サバナクロー寮生以外は配信を見られないように権限をつけてある。
『それは無理な話』
『ポムの野郎も手袋投げつけてくるんだぜ』
 ぽこぽこと抗議のコメントが上がってくる。
「それでもだ。リドル先輩にすっげえ文句言われてんだ。ラギー先輩のためにも喧嘩はこっそりやること。やるなとは言ってねえから」
 無駄な喧嘩ばかりしやがってと、ため息を落とした。ぽこぽこというコメントの音がひっきりなしに聞こえるが、無視する。
「次。マジフト大会が終わって、ハロウィンの準備が本格的に始まる。作業の分担はこっちで決めといた。あとで掲示板に貼りだしておくから確認しておくこと。それと――」
 時折寮生の質問に答えながら、とうとうと連絡事項を読み上げていく。
「一昨日、噴水の水を抜いた奴はラギー先輩に自首すること。あと、グラーダ先輩のチャリのサドルをブロッコリーに変えた奴はちゃんと戻しておくこと。何か質問がある人、はいなさそうだな」
 一通り連絡を終えたところで、様々なコメントが来ているのを見たが、特段取り上げる必要がなさそうなものばかりだった。
「今日はここまで。来月の報告会は――」
 終わらせようとしたとき、一つのコメントが目に入った。
『キングスカラー先輩が一時的に帰ってくるって聞いたけどほんと?』
「レオナ先輩が? あ、いや、これで配信切るから」
 レオナの文字に思わず反応してしまい、慌てて配信を切ろうとする。
『ハウルって前寮長と付き合ってんだろ? なんか聞いてないのか?』
『今レオナ先輩何してるって?』
 コメントが次々に表示され、切るに切れない。
 別に隠してはいなかったが、大公開しているわけでもなかったので、改めて文字にされると恥ずかしくなってしまう。
「レオナ先輩は、今あんまり連絡くれないから。帰ってくるっていうのも初耳だし……」
 ジャック自身、新年度になってやることが増えて忙しかったため、気にしないようにしていた。しかし、連絡すると言って学園を発ったレオナからのメッセージは日に日に減っていった。
 最後のメッセージは二週間前。どうでもいい話をしたあと、ジャックが朝の挨拶を送ったきり止まっている。
『先輩も忙しいんだろ』
『ハウルが忙しそうだから気遣ってんじゃね?』
『そんなときもあるって』
 ジャックの落ち込みようが画面越しに伝わったのか、一気に励ましのコメントが押し寄せてくる。
「はは、悪いな。俺らしくもねえ。いやにへこんじまった。今度飯でも行きたいんだが、こうも忙しいと誘うに誘えねえ」
 二週間前のログが脳裏にちらつく。ここからどうメッセージを送ればいいというのか。
 スマホを前にして、むっつりと黙り込んだ。コメントも少なくなってきた。
 ぽこ。
『お前、まだ起きてんのか』
『しけたツラしてんな』
『そろそろ寝る時間だろ』
 配信に入ってきたばかりなのか、話の流れにそぐわないコメントが表示された。誰だろうと、連続でコメントを打つユーザーの名前を見る。
「……レオナ先輩?」
 恐る恐る名前を呼ぶ。
『おう、レオナ先輩だ』
 無機質な文字を見ていると、ふつふつと怒りが湧いてきた。
「コメント打つ時間あるなら返事くださいよ。どんだけ待ってると思ってんすか」
『悪かったから』
 レオナには謝ってほしいと言いつつ、謝ってほしくなかった。 
『ハウル~喧嘩してないで誘っちゃえよ』
『そうだそうだやったれよ』
 黙り込んでしまったジャックに、寮生のコメントが届く。
 当事者じゃないからと適当なことを言いやがって。
 半ばヤケになって、ふてくされたまま口を開いた。
「先輩、今度……今度ご飯行きませんか」
 画面をちらちらと見て、レオナのコメントを待つ。長いような短いような時間が経ち。
『おう。行こう』
 その文字を見た瞬間、思わず拳を握りしめた。
『やった!』
『おめでと!』
 寮生も謎に盛り上がりも見せている。
 レオナからの配信コラボ希望通知が届き、無言で拒否した。
『おい、ジャック。配信に乱入させろ』
「もう俺寝るんで。ご飯楽しみにしてます」
 と、ノックの音が聞こえた。
「すみません、人が来たっぽいんで配信切りますね」
 立ち上がり、扉を開ける。
 スマホを握りしめたレオナが立っていた。


頒布2023.8.20

レオジャク,SS

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