これはおいしいお寿司

No.64

再会

-2025.3.16で出していた無配

「殿下」
 目の前に跪く男は、学生時代のなんら変わらない風貌だった。
 ただ、男の口から発される言葉と、決して交わらない目線だけが年月を表していた。

 ジャック・ハウルは、レオナの新しい護衛に任命された男である。
 そして、学生時代なんかこうイイ感じになったのに、レオナが卒業した途端に音信不通になった薄情者である。プライドの高いレオナがわざわざジャックに会いに学園まで行くわけもなく、そのまま終わったはずだった。レオナが卒業してから十年経った今、どのツラ下げてこの国まで就活しに来たのか。
 憮然とした面持ちで、レオナは白銀の頭頂部を眺めていた。
 いつもレオナを真っ直ぐに射貫いていた瞳が見えないことに苛立ちを感じる。
 平然と現れた事実を前に、あの思い出をくすぶらせていたのは自分だけだったのかと、ため息が漏れた。
 ジャックを連れてきた兵士の顔が引きつるのを見て、ジャック以外の人間を下がらせる。
「殿下に拝謁でき、光栄――」
 一度、レオナは床を踏み鳴らす。ジャックの言葉はかき消えた。
 膝をつくジャックの前に屈み、顎を掴んだ、壊れ物のようにそっと触れた、あの日のことは思い出したくもない。
「何しに来た」
 記憶よりいくらか鋭くなった目が、まん丸に見開いた。
「なんだ、就職先に困って昔の縁を頼りに来たのか? あいにく優秀なお前に見合うポジションはねえんだ。国に帰って走ってろよ」
 吐き捨てるように言うと、ジャックは耳を垂らして目線を落とし、低い声で呟いた。
「ここまで頑張ってやっと辿り着いたのに」
 しばしの沈黙の後、再びレオナに向けられた瞳は、怒りに燃えていた。
「何年も書類で落とされて、ようやく実技試験を通ったと思ったら、面接で礼儀がなってねえだの、よそ者が働けるわけないだろと落とされ、やっと先輩のところまで辿り着いたってのに。先輩の機嫌一つでクビにされてたまるか」
 ジャックはレオナの手を振り払い、フンと鼻を鳴らした。
「やっと先輩に見合う男になれたって思ったのに、当の本人がこれじゃ意味ないっすよ」
「ンだよ、俺の連絡を散々無視したお前が言えることかよ」
 レオナは口を尖らせて言う。
「だって……今日何食べたとか、今何してるとか、そういうの恥ずかしくて、なんて返せばいいかわからなくて」
 そう言って目を逸らすジャックの頬は、真っ赤に染まっていた。
 その様子に、恐ろしいくらいに一瞬で苛立ちが収まる。我ながら単純だと思いながら、レオナは壊れ物のようにそっと熟れた頬に手を添える。
「お前の気持ちが変わってないなら――」
 言いながら顔を近づけていく。
 ジャックが躊躇いつつも静かに目を閉じたのを見て、関係が終わっていなかったことに歓喜した。




頒布2025.3.16

レオジャク,SS

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