これはおいしいお寿司

No.66

氷が溶けるまで

-2025.12.21で出していたノベルティ

 粗野な寮生が妖精をからかったせいで、またしてもサバナクロー寮は極寒の地と変わり果てていた。どうやら魔法石をいじくってサバナクロー寮の気候だけを変えたらしい。地面は凍り、寮に生い茂る植物には雪が積もり、寮生たちは寮服の上から分厚い上着を着込んでご自慢の筋肉を縮こまらせている。レオナはいつもに増して寮長室に引きこもり、出てこない。元凶の粗野な寮生はどうにかしろと言われ、機嫌を損ねた妖精を探しに飛び回っている。
 そんな中で、雪国出身の寮生たちは大いにはしゃぎまくっていた。
 雪合戦をして、雪だるまを作り、かまくらを作って中でホットココアを飲んだり、大地の起伏を使ってスノーボードやスキーをしたりと、ほとんどの寮生が引きこもっているのをいいことにやりたい放題である。
 例外ではなくジャックも盛大にはしゃぎ倒し、寮のあらゆる斜面をひたすらボード片手に滑っていた。ひとしきり滑ったところで満足したジャックは、汗を拭いながらドカドカと寮内に戻り、その勢いのまま寮長室の扉をガンガンとノックした。
「レオナせんぱーい」
 返事はない。だが、扉の向こうから微かに香る匂いがレオナの存在を証明していた。
「寝てますか? 入ります!」
 レオナの返事を待たずにジャックは堂々と扉を開けて足を踏み入れた。
 扉を開けた瞬間、むわっとした暖気がジャックを襲う。室内には購買部で買ったのか、新品のストーブが置かれていた。先ほどまで体を動かしていたジャックには暑いくらいの室温だ。
 ジャックは眉間に皺を寄せながら、毛布を何枚も重ねてこんもりとした山を築いているベッドに目をやった。
「レオナ先輩」
「……なんだ」
 もう一度レオナの名前を呼ぶと、毛布の隙間からくぐもった返事が聞こえた。
「外出ませんか」
「ふざけんな寒い」
「この部屋は暑すぎっすよ。換気していいっすか」
「いいわけないだろうが。窓を開けてみろ、二度とこの部屋の敷居をまたげないようにしてやる」
 窓を開けることはひとまず諦めた。レオナは非常に機嫌が悪いようだ。だが、ジャックはそんなことはお構いなしに口を開く。
「スケート、やりませんか」
「やらねえって」
「談話室の滝のところが凍ってるんすよ。すげえカッチカチで、丈夫な分厚い氷になってたんで二人で滑っても大丈夫そうっす」
「やらねえ」
「さっき、購買部でレオナ先輩のスケート靴も買ってきたんで」
「俺の意見を聞く前に準備するな」
 毛布の山はぴくりとも動かない。
 ジャックはため息をついた。どうせ断られるだろうと思いながらも、多少の期待は持っていたのだが。
「それじゃ仕方ないっすね」
 もう一度ため息をついてから、ジャックはベッドから毛布を床によいしょと捨てた。
「さっみぃ……ふざけんなよテメェ」
「何枚重ねてんすか、これ。息できてました?」
 いつもの薄手の部屋着を着ていたら寒いに決まっている。ダンゴムシのように身を丸めているレオナを見て、ジャックは呆れた笑いを漏らした。ついで、クローゼットを勝手に開けて物色する。
「この長袖とズボン、手袋でいけそうっすね」
「いけそうっすね、じゃねえだろ」
「じゃ、レオナ先輩、起きて着替えてください」
「行かねえって言ってんだろ。毛布返せ」
 レオナにぎろりと睨まれる。
 やっと初めて目が合った、とジャックは口元をほころばせる。
「嫌っす。いつ氷が溶けるかわからないんで、俺は今レオナ先輩と遊びたいんすけど」
 少し唇を尖らせて俯くと、レオナは黙って考える様子を見せた。今レオナの頭の中では、寒い外に出ることの億劫さと、ジャックの健気な姿に付き合ってやろうかという妥協で天秤が揺れているに違いない。
 レオナと付き合って数ヶ月。少しばかり謙虚でいじらしい言動にレオナが弱いことはすでに把握していた。ジャックとてこの悪名高い名門校の生徒である。偉大なる上級生たちの背中から、己の欲に素直に従い賢く計算をすることをしっかり学んでいる。次はなんて言えば一緒にスケートをしてくれるだろうか。
「……わかった。これ以上ここで騒がれても面倒だ」
 ジャックが長考していると、レオナがのっそりと起き上がって深く息を吐いた。怠そうにジャックの選んだ服を着ているが、尻尾の揺れ具合からして機嫌は悪くないようだ。ジャックは尻尾をぱたぱた振り、顔に出さないように喜んだ。

「レオナ先輩ってスケートやったことありますか」
 昼間だというのに人っ子一人いない談話室で、ソファに座りスケート靴に履き替えながらジャックはレオナに聞いた。動ける寮生たちは外で雪合戦をしているようだ。
「ねえな」
「それにしちゃスケート靴の履き方がこなれてますね」
 レオナは慣れた手つきで靴紐を結んでいる。
「結ぶだけなら紐靴と変わらねえだろ」
 確かに、ブレードがついている以外は固めの靴と変わらないかもしれない。
「これはサムのところで買ったと言っていたが、お前の靴も買ったのか?」
「これは俺の靴です。麓の公営プールが冬はスケートリンクになるって聞いたんで、実家から送ってもらってたんです」
 レオナが紐を結び終えたのを見て、ジャックは立ち上がり即席スケートリンクに向かう。ブレードで談話室の床に傷がついたが、ほぼ外のようなものだから気にしないことにする。
 半透明の氷の上に足を置くと、するりと滑り出す。久しぶりの感覚にジャックは目を細め、滝壺をぐるりと滑った。整備されていないスケートリンクはところどころ凹凸があるが、気にならないくらい楽しい。そろそろレオナも滑る準備はできただろう。ジャックは何周か滑ってからキュッと止まってレオナに目を向けた。
「レオナ先輩、滑りま――」
 レオナは、ソファから立ち上がったものの、ぎくしゃくと壁に手をつきながら歩いていた。
「……見るな」
 舌打ちをひとつ。
「靴のくせに歩きづらいのは機能に問題があるだろ」
「滑るための靴なんで」
「なら氷の上で履き替えるべきだろ」
「それは確かに……」
 時間をかけてレオナはジャックの元へ辿り着いた。そして、滝壺付近の岩が壁のように突き出している箇所に手を置き、ゆっくり氷上に足を踏み出す。ジャックは固唾を呑んで見守る。
「――ジャック」
 両足を氷上に乗せたレオナは、岩に寄りかかってきれいな立ち姿を決めていた。
 まるでスケート雑誌の表紙のようだとジャックは瞬きをした。
「経験がねえってのに、かっこいいっすね」
「――ジャック」
 いつもの不遜な笑みでもう一度、レオナはジャックを呼んだ。
「なんすか」
「動けねえ」
「は?」
 今にも滑らかに氷上を走り出しそうな雰囲気を醸し出しているのに、と思いながらレオナを見ると、岩に寄りかかっているのでなく、足が滑り出さないように全力でしがみついていることに気がついた。微かに膝が震えている。
「先輩、岩を支えに一歩ずつ足を滑らせてみてください」
 ジャックはレオナを先導するように前をゆっくり滑り、見本を見せる。
「無理だろ、人間の体は氷の上を滑れるようにできてねえ」
「俺とあんたの体のつくりは一緒っす」
「氷と遊ぶ文化がねえんだよ」
 一歩も動けないレオナを見て、ジャックは思案した。無理強いして転んだら、もう二度と遊んでくれないかもしれない。それどころか、無様を晒したと言って仲が悪くなってしまう可能性もある。だが、せっかくここまでレオナを連れてきたのだ。少しはレオナにもスケートを楽しんでもらいたい。
「じゃあ、俺と一緒に滑りましょう」
 弟と妹にスケートを教えた日のことを思い出し、ジャックはレオナに両手を差し出した。
「おてて繋いで滑ろうってのか?」
 レオナは顔をしかめて鼻で笑った。岩にしがみついたまま。
「はい」
「俺を馬鹿にしてるのか?」
「まさか。誰でも最初は誰かに手を引かれて滑るもんです」
 ほら、とジャックは手を揺らした。
 レオナはジャックの手を見つめ、不承不承といった顔でゆっくり岩から片手を離した。すかさずジャックはレオナの手を握りしめる。
 もう片一方の手も捕まえると、レオナは命綱のようにジャックの手をがっちりと握り返した。レオナの体重がジャックの両手に預けられ、一瞬ジャックの体が揺れたがすぐバランスを取り直す。眉間に皺を寄せ、ジャックを支えになんとか立っているレオナの姿を見ると、なんとも胸の内がくすぐったくなってくる。今、レオナはジャックを頼るしかないのだ。
「ゆっくり滑るんで、余裕ができたら足を動かしてみてください」
 優越感にも似た愛おしさを隠し、ジャックはゆっくりと後ろ向きに滑り始めた。
 レオナはジャックに引かれるまま氷の上を滑る。全身に力が入っていて、思うように体が動かせないようだ。だが、バランスの取り方や一蹴りで滑る距離を見て覚えたのか、徐々に自分の足で氷を蹴るようになり、レオナを誘導するジャックのスピードは上がっていった。
 ぐるぐると後ろ向きに景色が回る。外気の冷たさと氷から立ち上る冷気で頬が痛い。
 正面に見えるレオナの口元は緩み、弧を描いている。いつの間にか力強く握りしめられていたレオナの手から力が抜け、今は添えられているだけになっていた。
 そっとジャックは手を開き、レオナから離れた。瞬間、レオナはぐらりと揺れるもすぐ体勢を整えて、自力でジャックの前を滑り出した。ジャックはレオナの背中を追いかけ、横並びに滑る。両手に掛けられていた体重がなくなり寂しくなったが、ようやく並んで滑ることができたことに口元を緩ませた。
「レオナ先輩ならすぐコツを掴めると思ってました」
「俺にできねえことがあるかよ」
「ないっすね」
 レオナは時折ふらつきながらも、滝壺の形に沿ってゆったりと滑っている。
「じゃあ、これはできますか?」
 イタズラ心とレオナの前でもっとできるところを見せたいという欲で、ジャックはスピードスケート選手のように身をかがめ、勢いよく氷を蹴りつけた。
 周りの景色がただの色になる。ブレードが氷に傷をつける感覚が靴から足へと伝わり、ジャックの脳を痺れさせる。氷を蹴る鋭い音が談話室に響く。
 後ろからレオナが追ってくる気配がした。レオナの音は次第に早くなり、ジャックの背後にぴたりとくっついてきた。
「できたぜ、生意気なジャック先生」
「さすがレオナ先輩だ」
 ジャックがスピードを緩めて振り返ると、レオナは息を切らしながら白い牙を見せて笑った。
 レオナは既に氷を自分の支配下に置き、大地を走るように空を飛ぶように自在に体を操っていた。
 二人は戯れに手を繋いだり、好き勝手離れたところで滑ったり、速さを競ったりと自由にスケートを楽しんだ。
「先輩、スケート楽しいっすか?」
「まあまあだな」
 レオナは片眉を器用に上げて肩をすくめたが、機嫌の良さは隠しきれていなかった。
「お前は楽しんで――いるみてえだな」
「そりゃもちろん」
 ジャックのご機嫌な尻尾に目をやり、レオナは目を細めた。
「レオナ先輩と滑れてすっげえ嬉しいっす」
「光栄なこった」
 滑りながら手を差し出され、ジャックは素直にレオナの手を握った。と、そのまま思い切り引かれてレオナの胸の中に勢いよく飛び込む。直感でブレーキをかけていなければ、レオナの胸板に衝突して二人とも転んでいたに違いない。
「びっくりした……」
「スケートも悪くねえな」
「なんすか、いきなり」
 危なげなくレオナの両腕がジャックの背中に回り、きつく抱きしめられた。
「手を引けばすんなりお前が俺の元に来るから」
 喉の奥で笑う声が聞こえる。
「……俺はわりと先輩のとこに行ってると思うんすけど」
「大体ラギーのところじゃねえか。そもそも自分勝手で気が向かないと来ねえだろ」
「それはレオナ先輩も同じな気がする」
「俺は俺、お前はお前。呼んだらすぐに来いよ」
 声をかけても起きず授業に呼んでも来ないのに。傲慢だと思いつつ、ジャックはまあいいかと頷いた。
「用事がないときは」
「用事があっても来いよ」
「宿題とかトレーニングとか」
「それより俺を優先しろよ」
「っす」
 返事をしながら、それでも普段は日課のほうを優先するだろうと思った。お互い自分が一番可愛いことを理解しているから、ただの戯れ言でしかない。嘘を言っているわけではないが、実現の難しい願望であるとジャックは自覚していた。

 スケート靴をソファに座って脱ぐ。
「寒くて爪先が痛え」
 レオナが隣でぼやきながら、自分の爪先を揉んでいる。
「慣れてますけど、やっぱり靴を脱いだときの開放感はすごいっすね」
 ジャックも固い靴から足を解放し、足の指を動かした。
「これを好き好んで競技にする奴の気が知れねえ」
「でも、やってみたら楽しかったっすよね」
「フン」
 靴を履き替え、手袋を脱ぐ。汗を掻くほど滑っていたのに、手も指先が冷たい。息を吐いて手を温めながら、ソファの背もたれに寄りかかってジャックは脱力した。汗が冷えて寒くなってきた。さっさと部屋に戻って暖まらないと風邪を引いてしまうが、もう少しレオナと一緒にいたくてジャックは口を開く。
「競技といえば、フィギュアスケートで滑り終わった選手が採点を待機してるとこあるじゃないですか。あれ、キスアンドクライって名前なんすよ」
「……結果を聞いてキスかクライかってところか?」
「大体そんな感じ、ん」
 のんびりと思いついたままに話していると、ジャックの唇に柔らかいものが触れた。したり顔でレオナが離れていく。
 何が起きたか理解すると、ジャックの頬が燃え上がるように熱くなった。
「な、なんなんですか」
「キスしてほしいんだろ?」
「ただの雑談っすよ……」
「嫌だったか?」
「そんなわけねえって知ってるくせに」
 ジャックは熱い頬を手で包んで冷やしながら、レオナを恨めしげに睨んだ。期待しなかったといえば嘘になるが、唐突なのは心臓に悪い。
「言葉にしないとわからねえな」
 普段言葉にしないことの多いレオナがにやりと笑った。

 ブレードが氷を切りつける音が談話室に響く。もう少し滑りたいと言うジャックの姿をレオナはソファから眺める。
 戯れのキスを何度か繰り返した後、寒さ以外の理由で真っ赤になった頬を冷ますようにジャックはレオナの前から逃げ、一人で滑り出した。豪快に勢いよく滑る姿は普段のジャックそのままで、それでいて細いブレードを自在に操っているのだからジャックという男がわからない。細かいことは苦手としていたはずだが、どうやら運動になると限界がなくなるらしい。繊細なステップを繰り出す体の曲線が優美に見えてきて、フィギュアスケートよろしく脳内で音楽が流れ始める。
 レオナは、ジャックが頬を染め白い息を吐いて氷に模様を描いていく様を眺めることに夢中になっていた。一人で何がそんなに楽しいのか、ジャックは我を忘れたように――レオナの存在も忘れたように滑り続けている。そのことが少しばかり面白くない気もする。いつまでも見ていたいのに、俺を見ろと声をかけたい。
 レオナが複雑な気持ちで観ていると、ジャックが急に止まってこちらを見た。まさか声に出していたのかと肩を一瞬強ばらせた。ジャックはレオナの様子に構わずきらきらとした目を向けてくる。
「レオナ先輩、見ててください!」
 言うやいなや、ジャックが勢いをつけて滑り出し――回転しながら高く跳んだ。
 そんなこともできるのかよ。
 レオナは目をぱちくりとさせ、感嘆の声を漏らした。
 着地して得意げな笑みを見せるジャックに口笛を吹いた。
「やるじゃねえか」
「まだ二回転しか跳べないんすけど」
 素直に褒めてやると、ジャックは瞬時に目を伏せ照れ臭そうに頭を掻いた。
「もっと跳べるようになったら、また見てください」
「楽しみにしておいてやる」
 そう言うとジャックはぱっと花開くように笑った。
 いつしか夕日が談話室をオレンジ色に染め上げていた。

 たくさん滑って満足したジャックとシャワーを浴びてから部屋に戻り、慣れないスケートでくたびれたレオナは真っ直ぐベッドに倒れ込んだ。ジャックも同じようにいそいそとレオナのベッドに潜り込む。
「狭い。自分の部屋に戻れ」
「寮が寒いから暖になろうと思って」
 言いながら、ジャックはぎゅうと抱きついてくる。
「暖房が効いてるから帰っていい」
 滑っている間ずっとつけたままだった暖房のせいで、部屋は少しばかり暑く感じる。ジャックが密着してくるせいでさらに暑い。
「じゃあ、暖房消しますね」
「消しますねじゃねえよ。ったく仕方ねえな」
 暖房を消されてはかなわない。レオナは根負けした。暖房の効き目を少し弱めて、普段より甘ったれな恋人の背中に腕を回す。ジャックは嬉しそうにレオナの胸元に額をこすりつけた。

 翌日の朝。
 妖精の機嫌が直ったらしく、サバナクロー寮の雪はすべて溶けいつもの風景に戻っていた。滝からは水が流れ落ち、黄土色の大地が顔を見せ、植物たちは緑豊かに陽射しを浴びている。寒さに震えていた寮生たちは服を脱ぎ捨て水を浴び、外を駆け回った。鬱憤を晴らすかのような大暴れっぷりを、レオナは談話室のソファで眺めていた。いつものように鷹揚に過ごしているだけであって、決して筋肉痛で動けないわけではない。
「雪が溶けてよかったっすね」
 ジャックが隣に座ってきた。
「まあな」
「俺は少し寂しいっすけど」
「意外だな」
「昨日がとても楽しかったんで」
 ジャックの声がわずかに尖る。
「寮を出れば真冬だろ。お前が言っていたスケートリンクだってシーズン中だ」
「寮の外までレオナ先輩出てきてくれないじゃないっすか。授業に引っ張り出すのだって毎回苦労してるのに」
 昨日は寮内だからギリ付き合ってくれただけで、寒い中わざわざ一緒に遊んでくれないだろう。ジャックはそう思って拗ねているのだ。半分正解だ。レオナは寒い日に着込んでまで外に出たくない。だが。
「お前が誘ってくれるなら、たまには出てやるが」
「本当ですか?」
 レオナの言葉に喜ぶかと思いきや、疑いの目で見てくる。
「約束したろ。ジャンプの回転数が増えたら見てやると」
「……増えなくても見てほしいんですけど」
「見てほしいときには呼べ」
 昨日の口約束は破らない。そう断言すると、ようやくジャックは控えめに尻尾を振り、大きな耳をぴょこぴょこ震わせた。
「じゃあ、マジフトの特訓も付き合ってくれますか?」
「ん? まあいいぜ」
「それじゃあ、授業にも出てくれますか?」
「まあ……ってそれは話が違えだろ」
「ちぇっ」
 丸い金色を輝かせてねだられると、どうにも弱くなってしまう。危うく授業に出る羽目になりそうだった。一瞬の油断が命取りになる。誰だ、この青い狼をしたたかに育てた奴は。俺か。
「留年しまくって俺と同学年になったらどうする気だ……」
 ジャックのぼやきにレオナは笑った。
「それも悪かねえな。たっぷり遊んでやる」
「いや、ちゃんと進級しろよ」
 二度と留年するつもりはないが、またジャックといくつもの季節を過ごしたい。
 レオナは静かに願った。




頒布2025.12.21

レオジャク,短編

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