これはおいしいお寿司

No.8

遊園地デート

–遊園地行こうぜ

 「ラギー先輩に誘われたのに」
 待ち合わせ当日、目の前に現れたのはレオナだった。

 ジャックは尊敬する大好きなラギーに誘われ、遊園地に行く予定だった。確か「無料でチケット二枚もらったんスけど、どうしても捌けないんスよね。やっぱ値段吊り上げたのが悪かったんスかね。明日が期限で売り先もう見つかんない気がするから、ジャックくん付き合ってくんない? ほらジャックくんなら園内でスリ騒ぎが起きても庇ってくれるっしょ」と身も蓋もない誘われ方をしていたはず。思うところがないわけではないが、それでもラギーから誘われたのが嬉しくて二つ返事で乗った。
 その結果、園の入り口で待っていたのはレオナで、慌ててスマホを確認すると「ごめん、行けなくなった」の一言だけ通知が入っていた。

「どうしてレオナ先輩が」
「ピンチヒッターで行けと叩き起こされた。代わりに1ヶ月間飯に野菜を入れない契約をした」
 レオナと遊園地に行くのも嬉しいのは確かだが、ラギーと行くことを楽しみにしていたので少し尻尾が下がる。
「俺と行くのがそんなに嫌か」
 レオナはレオナで、あからさまにがっかりされて機嫌が急降下していた。
「あ、いやそんなことはないんすけど。ドタキャンされるのってちょっとばかし寂しいというかなんというか。代わりにレオナ先輩が来てくれたんで、そこまで落ち込んではないんすけど。まあラギー先輩とどう回るか考えていたんで、今ノープランになりました。そんなんでもいいですか?」
「ふん、ラギーがお前の喜びそうなプランをよこしてきたから問題ねえな」
「本当ですか!」
 ラギーが自分のためにプランを練っていたと知り、尻尾が揺れる。
「じゃあ中入りますか」

 ジェットコースター、ゴーカート、ティーカップと激しいアトラクションに続けて乗り、時々売店のフードを食べる。
「レオナ先輩て意外とこういうの楽しめるんですね」
「意外か? よく荒れた道で車を転がしてたからな、絶叫系は得意だ」
「いや、俺の好きそうなプランっていうから、レオナ先輩が楽しめなかったらどうしようと」
 ポップコーンを食べ歩きしながら、のんびりと次のアトラクションへ歩を進める。
「いくらお前のためのプランといっても俺が嫌いなものは乗らねえよ」
「え、嫌いなアトラクションってあるんですか?」
「嫌いというか乗る気にならねえってやつはメリーゴーランドだな。あんな上下してるだけの乗り物の何が楽しいんだか」
 口を大きく開け、ポップコーンを放り込む。レオナの牙が太陽に反射する。
「へえ、そうなんですね。俺もどっちかというとジェットコースターのほうが好きっすけど。あでも妹が楽しんで乗ってるのを外から見るのは好きでしたね――それにしても、レオナ先輩が叩き起こされたからとはいえ、ちゃんと待ち合わせ場所に来て楽しんでくれて良かったです」
「言っただろ、野菜と引き換えだ」
 それにしてももっと気の抜いた私服だと思っていた――上下スウェットにキャラクターもののサンダルとか。以前薔薇の王国で遊んだときに見かけた、デュースの元舎弟とやらの格好を思い出す。いや、さすがに一国の王子がそんな格好で外をうろつくわけないか。
「何笑ってやがる」
「いえ、レオナ先輩の私服が想像より格好良かったもので」
「……そうか? ふん、格好悪いよりいいな」
 春物の黒ジャケットに白いシャツ、紺のパンツは一見シンプルだが容姿の良さが際立つ。
「お前は、いつもと変わらねえな」
「遊ぶ用の服はあるんですよ。でも腕に筋肉つけすぎたみたいで、着られなくなっちまって……」
 ジャックは休日の寮内でよく着ている半袖のTシャツにジーパンを合わせていた。隣のレオナが余所行きなのに釣り合わない、とうつむく。
「似合ってるからいいんじゃねえのか。それに……筋肉はあるに超したことはないだろう」
「むやみにつけるもんでもないって前言ってませんでしたっけ」
「あー、そうだったか」
 どこか遠い目をするレオナを見やり、少し黙した。今からでも園内のショップでマシな服を買うべきだろうか。いや、そんなことに時間を割いてもらうのももったいない……。ジャックが洋服のことでウンウン悩んでいるうちに、お目当てのアトラクションに辿り着いた。

 あっというまに日が暮れ、空は橙に染まった。
 釣り合いのことも時間もいつしか忘れていた。レオナが途中で飽きてしまうんじゃないかと最初はハラハラしていたが、飽きるどころかジャックより楽しんでいるようだった。大きな口を開けて笑っているのを見ていると、なにもかもどうでもよくなってしまった。
「帰る時間のこと考えるとあと一つくらいですね」
「そうだな」
 最後に何に乗るかマップを広げて睨んでいると、レオナがあれはどうだと指差した。指した方向を見ると。
「観覧車……?」
「この園の目玉だってな、この巨大観覧車」
「ラギー先輩がそんなプラン作ってたんですか? なんかこう、俺もレオナ先輩も乗らなさそうですけど。なんていうか、恋人と乗るもんじゃないですか?」
「そう、だが」
 レオナは観覧車を睨みつけて黙り込み。意を決したように言葉を発した。
「俺と、そうなるのは、嫌か」
「は?」
「だから、観覧車に」
「いやいや聞こえてたんですけど、」
 本気かと言いかけて、うっすら夕焼け色に染まったレオナの頬が目に入った。レオナはずっと観覧車を睨んでいる。
「嫌なら先に帰れ。俺は1人で乗ってくるから」
「ふっ」
 思わず笑いがこぼれてしまった。
「す、すみませ……1人で観覧車に乗るレオナ先輩想像したらシュールで。でも、その考えたことはないですけど、嫌じゃない気が」
 例えば今日のような1日をまた過ごせると思ったら。
 例えば学園ではめったに見られないレオナの純真な笑顔が見られると思ったら。
 例えば格好良いのに観覧車にうまく誘えない姿を自分のものにできると思ったら。
「乗りましょうか、観覧車」
 それはとてつもなく素晴らしいと。
 生涯の一人をそんな理由で選んでしまっても後悔なぞしないと思えたのだ。

「ラギー、やっぱり遊園地のラストに観覧車はベタすぎないか」
「ジャックくんはベタなやつに弱いに決まってるっしょ。明日寝坊しないでくださいよ」

 

 

レオジャク_2week
Twitter投稿2023.4.15

レオジャク,SS

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