これはおいしいお寿司

No.9

春の終わり、初夏の訪れ

–脊髄で喋ってる

「気温、おかしくねえか」
「おかしいと思います」
 談話室。半裸になってぐでんと横たわる男と、適当なシャツを着て優雅にジュースを飲む男がいた。
「ちょっとミラに聞いてみろよ。『初夏とは』って」
「国語辞典通りの返事するに決まってんじゃないですか」
 今年は例年より気温が高く、ジャックは早々に春服をタンスにしまいこみ、夏への衣替えを早めることにしていた。ジャックは雪国の故郷から服を持ってきていたので、全体的に厚めの服が多いのだった。
「ケイトの野郎が『今日はめっちゃ暑いねヤバヤバのヤバじゃん#もう夏#春はなかった#春とは#初夏とは』って写真上げてるわ。あ昨日なんか『春終わったんか#春もうちょい長引け#夏は六月からに決まってんだろ#明日絶対トレイにアイス作らせる#リドルくんと一年生パワー使って絶対作らせる』だってよ」
 レオナがジャックにスマホの画面を見せる。
「何してるのかと思えば、マジカメ見てたんすか」
「初夏の定義について調べようと思ってよ、間違って開いたらケイトの投稿が上に来てた」
「そっすか」
 ハーツラビュルのアイス食べ食べ大会の写真をちらりと見て、ジャックは少し頬を膨らませた。
「人のSNS覗いたくらいで拗ねるな」
「は? そんくらいで焼き餅焼くと思ってんすか」
「ちょっと重いくらいがちょうどいいんだが」
「その程度で嫉妬するのは病気の類いだと思うんすけど」
 ジャックの口が尖り、レオナは思わずくちばしをつまんだ。
 黙ってはたかれた。
「じゃあなんだ」
「別に。俺も昨日マジカメ上げたけど、なんも見てくれてなさそうだなとか思ってないんで」
「ウワめんどくさい」
「ちょっと重いくらいがちょうどいいって言ったのはこの口ですよね」
 ジャックはレオナの両頬を思い切り引き延ばした。
「いってえ。ふざけんな」
 レオナも仕返しにとジャックの頬をつねる。
 ギッチギチに全力でお互いの頬をつねり合う様はとても滑稽だったが、当の本人たちはまったく気づかないでいた。
 魔法力は圧倒的にレオナのほうが強大であったが、筋力はジャックに敵わず、レオナが早々に白旗を揚げることになった。
「いてて。んで、昨日上げたっていう写真はこれか」
 特になんてことのない、サボテンの写真だった。
「思い切りつねるほどの写真か?」
「もっかいつねってもいいんですが」
 思わず両手で頬を守りながら、レオナはジャックを睨む。
「サボテンなんかお前がいつも直接見せてくるだろ。その写真がなんだって言うんだ」
「俺の投稿を逐一確認しろってだけですけど」
「ウワめんどくさい」
 レオナがきっちりと頬を守っていたので、ジャックは行き所のなくなった両手を組んでどう暴力に訴えかけようか考え込んだ。
「俺は画面越しより、この両の目で見るモンを大事にしてえんだけどよ」
「それはそれ、これはこれなんで。俺はこれからもサボテンの生長を全部レオナ先輩に報告しますし、マジカメに上げてちゃんとハートつけてくれるか確認しますよ」
「ウワめんどくさい」
 ジャックが見せに来るからサボテンの感想を言っているだけで、本当は興味などひとかけらもなかった。ジャックはジャックで、なんかいい感じの感想を言ってくれるから興味があるのだと思い、毎日のようにサボテンを見せているのだった。
「マジカメなんか一ヶ月に一回も上げないんすから、上げたときくらい見てくれたっていいじゃないですか」
「開いたときはちゃんと見てるじゃねえか。昨日は偶然スマホ開かなかっただけだろ」
「それはそうっすけど、俺のを見る前にケイト先輩の投稿見て、それを見せてきたのが気に入らなかっただけなんで」
 ジャックは終わりと言うようにレオナのスマホの電源を落とした。
「おい勝手に落とすな。電話来たらどうすんだよ」
「どうせ出ないじゃないっすか。ラギー先輩がぶちってましたよ」
 なんなら噴水に投げ込んだって困らないくせに。
 少し口の端で笑い、噴水に投げるふりをしてレオナにスマホを返す。
「んなことしたらお前とも連絡取れなくなるじゃねえか」
「ほら、それはアレっすよ。愛の力みたいなパワーで心の中に届けてくださいよ」
「購買で(ミスチキください)ってサムに語りかけるアレか」
 一時期サムが本当になんでも売ってくれるのか検証する委員会が立ち上がり、無茶な物品をリクエストしまくった挙げ句、何も言わなくても商品を出してくれるか挑む猛者まで出たことがあった。結局サムの全勝で終わった。
「それそれ」
「俺はサムじゃねえし、お前は俺の言いたいこと全然汲み取らねえじゃねえか」
「でも俺の言いたいこと大体は通じるじゃないっすか。まあ打率二割ってとこですけど。あと先輩の顔はわかりづらい」
「お前は顔によく出るんだよ」
「二割のくせに」
 ふと目を合わせ。タイミングを合わせることもなく笑い合った。
「じゃあ、今俺が何を言いたいかわかりますか?」
 笑い涙を拭いながら、ジャックがじゃれるように言った。
「今日めちゃくちゃ暑くね?」
「半分合ってる」
「あと半分は?」
 銀の髪を手で梳きながら、レオナが微笑む。
「うーん」ジャックは少し言いよどみ「こんな感じっすかね」
 レオナの額にそっと唇を当てた。
「ワオ」
 目をまん丸にしたレオナが口笛を吹いた。
「ま、暑さでやられたってことで」
「春があっちいのも悪かねえな」
 慌てて離れた真っ赤な顔を追いかけ、レオナは熟れた林檎のような頬に唇を押しつけた。

 

 

レオジャク_2week
Twitter投稿2023.4.29

レオジャク,SS

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