これはおいしいお寿司

No.15

一世一代の告白

–一生モン

「一生のお願い」とやらは、大抵数回繰り返されるものだ。ジャックも、弟や妹の「一生のお願い」を何度も聞いてきた。「一生」という単語を使うのは何も小さな子だけでなく、最近ではエースも爆睡していた授業のノートを貸してくれと「一生のお願い」をしてきた。これで三度目である。
 ゆえに、ジャックは他人の言う「一生」を信用したことはなく、また特段特別なものだと思わなかった。

「これは一生の願いってやつなんだが」
「先輩もそんな単語知ってんすね」
 学園裏の森に呼び出されたと思ったら、真剣な顔でレオナに「一生のお願い」を切り出された。
「お前の周りの不器用トラブルモンスター共がよく言ってるだろ。ノート貸せだの代返しろだの」
「ぶき……」
 しばらく考えて、監督生周辺だと思い至った。
「そいつらがお前に頼み事するとき、いつも『一生のお願い』って言うだろ」
「確かによく言ってきますけど」
「だから、そう言ったらお前は素直に聞くのかと思って」
 自分の結論が正解だと言いたげに、レオナはウンウンと頷く。
「もしかして、あいつらの『一生』を信じて頼みを聞いてると思ってるんすか?」
「違うのか?」
「ノートごときで『一生』を使う奴らを信じるほど馬鹿じゃねえんですけど。別に、俺に大きなデメリットがあるわけじゃないし、代わりにタイム計測やトレーニングを手伝わせるんで聞いてやってるだけっすよ」
「そうか」
 ジャックの言葉を聞くと、レオナは難しい顔をして黙り込んだ。そろそろ呼び出した理由を教えてほしいのだが、ジャックは辛抱強くレオナの言葉を待った。
「……じゃあ、今からお前に頼み事をしようと思っていたんだが、メリットデメリットを提示すれば聞いてくれるってことだな?」
「ま、そうですけど。いくら先輩の頼みでもできないことはあるんで」
 大抵のことは寮生に命令して事を済ませていたのに、ここまで慎重になるのは珍しい。一体どのようなことを頼まれるのか。レオナの迷いを見ると不安になってくる。
「……犯罪は駄目っすからね?」
「いや! いや、法には触れない……多分、触れないはずだ。少なくともうちの国にはそんな法律はない」
「もしかして輝石の国の法律には引っかかるとか……?」
「ざっと調べた限り引っかかってはなさそうだが、もしかしたらどこぞの国では引っかかるかもしれない」
 今から何をさせられるのだろうか。条件を聞かずに逃げ出したくなってきた。
「俺の将来に響くようなことはなしっすからね」
 何かあってもレオナは権力が守ってくれそうだが、一般市民のジャックはそうはいかない。面倒ごとに巻き込んでくれるなと、少しばかり重心を落とし、いざとなったら拳を使えるように構えた。
「安心しろ。お前より俺の将来に響く。間違いなく」
「余計に心配になってきたんすけど。先輩、何をしようとしてるんすか」
「一生のお願いってやつと、一世一代の告白ってやつだ」
仰々しい単語が嘘っぽく聞こえる。こんな言い方をするときは、大体レオナの利益になりジャックの不利益になることを、それっぽい言葉で言いくるめようとするときだ。わかっていてもいつもだまされてしまう。
「面倒なことはしないっすからね」
 何を言われても裏を見抜いてやろうと、眉間に皺を寄せた。
「場合によってはとても面倒なことかもしれねえが。いいか、一生の願いだからこれから言うことを真剣に聞いてくれ。あと俺のことを嫌いにならないでもらえると助かる」
「俺はいつだって先輩に真剣っすけど、ちゃんと聞きます。嫌いになるかどうかは内容によりますけど、俺は今んところ先輩のことを嫌いになったことはねえっす」
 馬鹿真面目なジャックの性格を嫌というほど知っているレオナがわざわざお願いをするくらいなのだから、大変重要なことに違いない。ジャックは眉間に皺を寄せたまま、慎重に頷いた。
「これは一世一代の告白なんだが」
「はい」
「好きだ」
 予想外の言葉にジャックは思考が固まった。
 レオナは始終真剣な表情を崩していない。冗談めいた雰囲気も見られない。
「付き合ってくれ」
 学園生活で時折見せる、心まで見透かすような真っ直ぐな目が今ジャックを射貫いていた。
「えっと……」
 何か返事をせねばと、喉から声を絞り出す。
「いきなり言われて困るよな。真剣に聞いてくれっていう一生の願いは叶えてくれたから、もういい」
 戸惑うジャックの表情に、レオナは目を細めて手をひらりと振った。悲しむ様子は見られない。ただ、ジャックをからかう様子も一切見られない。
「せ、先輩」
「時間を取らせて悪かった。忘れてくれ」
 レオナはくるりと背を向けて立ち去ろうとする。
「レオナ先輩!」
 何も考えず、本能だけで思わず呼び止めた。
 ジャックのほうにゆっくり振り向くレオナの瞳は、揺れていた。
 見たことのないレオナの顔に何を言おうか、言葉が飛び去ってしまう。
「なんだ、お前の同情ほどいらねえもんはねえ」
「いえ、そうではなくて」
 必死に思考を巡らせて、口を開く。
「一世一代の告白……って言いましたよね?」
「ああ。こんなことを言うのはこれっきりだ」
 顔をしかめてレオナはため息と共に返事をした。
「えっと、俺も人と付き合うときは一生分考えて一人を選びたいんで、すぐ答えが出せないんですが。先輩が一世一代、これっきりって言うなら、先輩の気持ちに真剣に向き合いたいです」
「つまり、どういうことだ」
 いつもは察しがいいレオナもジャックの言葉に首を傾げる。
「その……お友だちから、ってやつ、っすかね?」
 フィクションでしか聞いたことのない言葉をレオナに言った。
「先輩と生涯共にできるか、考えたことがなかったので……これから先輩のことをもっと知って、きちんと返事をしたいです」
「首の皮一枚繋がったってことか?」
 ジャックの言葉を咀嚼し、理解したレオナが自嘲めいた笑みを浮かべる。
「そんなところっすかね。でも、レオナ先輩のほうからやっぱり無理だったって言うのもアリっすから」
「それはどうだか」
 ようやくレオナの眉間の皺が浅くなった。ジャックも肩の力を抜いて笑う。
「ああ、そうだ。もう一つ一生の願いと一世一代の告白があるんだが。怒らずに聞いてくれるか?」
「一瞬で信用を無にしてきますね」
「冷蔵庫のデザート、食っちまった」
「今すっげえ嫌いになりました」

 

 

レオジャク_2week
Twitter投稿2023.8.12

レオジャク,SS

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