これはおいしいお寿司
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No.18
ラーメン
–深夜のラーメン
時間を刻む秒針が蒸気の向こうに見えた。
鍋蓋の隙間から湯気が溢れ、視界をうっすらと白く染める。
ぶくぶくと泡立つ音に蓋を開ければ、これ以上温度は上げられないと言わんばかりにお湯が沸騰している。
お湯を沸かしている間に刻んでいた野菜をざっとまとめて鍋に入れる。キャベツ、にんじん、玉ねぎ、もやし。大きさも厚みもバラバラだが、まあざっくり火が通ればよかろうと躊躇いなく入れる。
完全に沸騰する前に入れたら時間の無駄がなかったかもしれないと今になって思うが、野菜を刻むのに時間がかかりすぎてしまったから仕方がない。指を切らなかっただけよかったとしよう。
すぐに麺を入れていいものかと、鍋の中で揺らめく野菜を眺めて頭を捻る。あと五分程煮てにんじんは柔らかくなるだろうか。
大量の野菜でぎゅうぎゅうになった鍋は、麺が入る隙がなさそうにも見えた。ぐつぐつ、ぼこぼこと音がキッチンに響く。
分針が二周ほどしたところで、空腹を訴える音を無視できなくなったので麺を投下した。にんじんが固くても腹に入ればよかろうなのだ。
パッケージに記載されている五分だけは遵守しようと、タイマーを仕掛ける。減っていく数字を睨みつけながら、野菜と麺で溢れそうな鍋をかき混ぜた。
あっという間に過ぎるはずの五分が永遠に感じられる。このままでは背中と腹がくっついて死んでしまいそうだ。麺が茹で上がる前に食べかねないので、卵を二つほど割り入れて落ち着かない手をごまかす。
「何やらいい匂いがすると思ったら、お前か」
食べ物の匂いに人の香りが混ざったことに気づくや否や、声が聞こえてきた。
「こんな時間に起きてるってことは明日は雪でも降りそうだな」
機嫌がよさそうに笑うレオナが、腹を撫でながらジャックの元に近づいてくる。
「先輩も腹減ったんすか」
「そんなところだ。で、何作ってんだ?」
「ラーメンです」
「ラーメン……」
少し思案するように斜め上を見て、頷く。
「もうできるのか?」
「……これは俺の分なんすけど」
「けちけちすんなよ。普段から頑張っている寮長への労りだと思っとけ」
「はい……はい?」
一瞬納得しかけたが、今日は学園の様々な場所で寝ているところしか見ていないことを思い出した。
いくら寮長といったって、空腹で死にそうになっている寮生から食べ物を奪うことは許されない。このラーメンはジャック自身が守らなければ、いともたやすくレオナの腹へ吸い込まれてしまうだろう。
蒸気越しにレオナを睨みつけた。レオナもよほど腹が空いているらしく、ギラギラと光る目でジャックを睨みつけてくる。
と、タイマーが鳴った。
一時休戦と、レオナから目を逸らしていそいそと器にラーメンを盛る。
黄色く茹で上がった麺をトングで掴み入れ、透き通った野菜を次いで盛り入れる。鍋の底に残った卵を野菜の上に乗せる。
「……」
いつの間にか目の前に来てラーメンに釘付けになっているレオナを見つめる。先ほどのように険しい表情はしていないが、代わりに耳が可哀想なほどに垂れている。哀愁漂うその姿に、つい声をかけてしまった。
「……食べますか?」
途端にレオナは「言ったな?」にんまりと笑い、そそくさと大きな器を棚から出してきた。
「一口だけに決まってるじゃないっすか。その器、俺のやつよりデケえ! ちょっとしか駄目です!」
やられたと後悔したのも束の間、レオナがジャックの器からこんもりと麺を移動させるものだから慌てて腕を掴んで妨害する。
「取り過ぎっす! これ、作ったの俺! 食べるのも俺! 先輩!」
ぎゃあぎゃあ喚いていると、静かになったレオナの顔が突然目の前に近づいてきた。
ぎゅっと目を瞑った瞬間、唇に柔らかな感触と湿った空気が触れた。
何事かとゆっくり目を開くと、既にレオナの姿は遠くにあり、ジャックのラーメンは半分ほどに減っていた。
「俺のラーメン!」
「騒ぐと余計腹が減るぞ。ってなんだ、このにんじん固ぇな」
慌てて器を抱えてレオナの元へ駆け寄る。卵まで一つ取られてしまった。
「文句言うなら返してください」
「食べないとは言ってない」
「食べてくださいとも言ってないんですけど」
「食べるかって聞いてきたろ」
「たくさん食べていいとは言ってません」
「肉がねえ」
「すみませんね、肉はいつも在庫ないんすよ。補充された瞬間に消えるもんで」
勢いよく麺をすする。ラーメンを教えてくれた寮生が、大きな音を立てれば立てるほどおいしいものだと言っていた。なるほど、行儀が悪いと思っていたが、言われればおいしく感じてきた。
レオナもジャックに倣って麺をすする。熱い息をほうと吐き、満足げに頷いた。
「悪かねえな」
「っすね」
深夜二時。
麺を啜る音に紛れて秒針がちくたくと時を刻む。
「残ったスープに米入れるとおいしいらしいんですけど」
「食べる」
ラーメンを食べたくなった夜、リハビリがてら
Twitter投稿2023.12.16
レオジャク
,
SS
2026.1.15
No.18
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鍋蓋の隙間から湯気が溢れ、視界をうっすらと白く染める。
ぶくぶくと泡立つ音に蓋を開ければ、これ以上温度は上げられないと言わんばかりにお湯が沸騰している。
お湯を沸かしている間に刻んでいた野菜をざっとまとめて鍋に入れる。キャベツ、にんじん、玉ねぎ、もやし。大きさも厚みもバラバラだが、まあざっくり火が通ればよかろうと躊躇いなく入れる。
完全に沸騰する前に入れたら時間の無駄がなかったかもしれないと今になって思うが、野菜を刻むのに時間がかかりすぎてしまったから仕方がない。指を切らなかっただけよかったとしよう。
すぐに麺を入れていいものかと、鍋の中で揺らめく野菜を眺めて頭を捻る。あと五分程煮てにんじんは柔らかくなるだろうか。
大量の野菜でぎゅうぎゅうになった鍋は、麺が入る隙がなさそうにも見えた。ぐつぐつ、ぼこぼこと音がキッチンに響く。
分針が二周ほどしたところで、空腹を訴える音を無視できなくなったので麺を投下した。にんじんが固くても腹に入ればよかろうなのだ。
パッケージに記載されている五分だけは遵守しようと、タイマーを仕掛ける。減っていく数字を睨みつけながら、野菜と麺で溢れそうな鍋をかき混ぜた。
あっという間に過ぎるはずの五分が永遠に感じられる。このままでは背中と腹がくっついて死んでしまいそうだ。麺が茹で上がる前に食べかねないので、卵を二つほど割り入れて落ち着かない手をごまかす。
「何やらいい匂いがすると思ったら、お前か」
食べ物の匂いに人の香りが混ざったことに気づくや否や、声が聞こえてきた。
「こんな時間に起きてるってことは明日は雪でも降りそうだな」
機嫌がよさそうに笑うレオナが、腹を撫でながらジャックの元に近づいてくる。
「先輩も腹減ったんすか」
「そんなところだ。で、何作ってんだ?」
「ラーメンです」
「ラーメン……」
少し思案するように斜め上を見て、頷く。
「もうできるのか?」
「……これは俺の分なんすけど」
「けちけちすんなよ。普段から頑張っている寮長への労りだと思っとけ」
「はい……はい?」
一瞬納得しかけたが、今日は学園の様々な場所で寝ているところしか見ていないことを思い出した。
いくら寮長といったって、空腹で死にそうになっている寮生から食べ物を奪うことは許されない。このラーメンはジャック自身が守らなければ、いともたやすくレオナの腹へ吸い込まれてしまうだろう。
蒸気越しにレオナを睨みつけた。レオナもよほど腹が空いているらしく、ギラギラと光る目でジャックを睨みつけてくる。
と、タイマーが鳴った。
一時休戦と、レオナから目を逸らしていそいそと器にラーメンを盛る。
黄色く茹で上がった麺をトングで掴み入れ、透き通った野菜を次いで盛り入れる。鍋の底に残った卵を野菜の上に乗せる。
「……」
いつの間にか目の前に来てラーメンに釘付けになっているレオナを見つめる。先ほどのように険しい表情はしていないが、代わりに耳が可哀想なほどに垂れている。哀愁漂うその姿に、つい声をかけてしまった。
「……食べますか?」
途端にレオナは「言ったな?」にんまりと笑い、そそくさと大きな器を棚から出してきた。
「一口だけに決まってるじゃないっすか。その器、俺のやつよりデケえ! ちょっとしか駄目です!」
やられたと後悔したのも束の間、レオナがジャックの器からこんもりと麺を移動させるものだから慌てて腕を掴んで妨害する。
「取り過ぎっす! これ、作ったの俺! 食べるのも俺! 先輩!」
ぎゃあぎゃあ喚いていると、静かになったレオナの顔が突然目の前に近づいてきた。
ぎゅっと目を瞑った瞬間、唇に柔らかな感触と湿った空気が触れた。
何事かとゆっくり目を開くと、既にレオナの姿は遠くにあり、ジャックのラーメンは半分ほどに減っていた。
「俺のラーメン!」
「騒ぐと余計腹が減るぞ。ってなんだ、このにんじん固ぇな」
慌てて器を抱えてレオナの元へ駆け寄る。卵まで一つ取られてしまった。
「文句言うなら返してください」
「食べないとは言ってない」
「食べてくださいとも言ってないんですけど」
「食べるかって聞いてきたろ」
「たくさん食べていいとは言ってません」
「肉がねえ」
「すみませんね、肉はいつも在庫ないんすよ。補充された瞬間に消えるもんで」
勢いよく麺をすする。ラーメンを教えてくれた寮生が、大きな音を立てれば立てるほどおいしいものだと言っていた。なるほど、行儀が悪いと思っていたが、言われればおいしく感じてきた。
レオナもジャックに倣って麺をすする。熱い息をほうと吐き、満足げに頷いた。
「悪かねえな」
「っすね」
深夜二時。
麺を啜る音に紛れて秒針がちくたくと時を刻む。
「残ったスープに米入れるとおいしいらしいんですけど」
「食べる」
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