これはおいしいお寿司

No.51

次は殴ってでも酔いを覚ませてやる

-2023.5.3で出していた無配

 レオナは酷く酔っ払っていた。
 留年仲間たちと談話室で飲酒パーティをしていたのである。留年仲間に寮長と寮生の差はなく、ただただ年功序列の世界が広がるのみであった。
 上から仙人、長老、名誉教授、名誉卒業生、次世代の希望4、3、2、1と格付けされており、レオナは次世代の希望3の座にいた。ちなみに留年していない学生のことは、次期留年生やエスカレーターお坊ちゃま、踊り場知らずなどと呼んでいる。
「でよ、仙人的にはあのーあれだ、トレインの出題傾向は微妙に変わりつつあると」
「んだ。前までは選択と記述が半々だったが、去年あたりからは記述が8割を占め始めているとエスカレーター共からの情報だ」
「なるほどな」
「まあ、情報の一部は1Aからもらっているから信憑性はないが」
「そーれはそうだ。1Aじゃあな」
 仙人が渋い顔をして演説をして、名誉教授はなるほどと頷いた。酔っ払っているから何も聞いていないが。長老は既に潰れており、名誉卒業生は仙人の尻尾と戯れている。
「1Aといやー、うちのジャックも悪影響受けてんだ。腐ったみかんの法則か? 大体よ、一匹狼のはずがどーうしてあの馬鹿どもとつるむことになるんだ。孤高の一匹狼は自称か? ちゃんと孤高にいろよ」
 ご機嫌フェイスペイント寮の特別アホな二人が思い浮かんだので、ふわふわの脳みそに支配された次世代の希望3は思うがままに愚痴を吐く。
「1Aにいるうちの寮生は止めるべきだろうが、な? 俺とつるまねえっていうのにどうしてオレよりも馬鹿な奴と遊んでんだっていうんだ。ほらぁ、あれだぞ、俺のほうが頭がいい。うん、あと顔もいいな。それと俺のほうが優しいに決まってる。なんてったって俺は困ったら助言をくれてやることができる。馬鹿は3人集まっても馬鹿の知恵だし、3分の2が筋肉馬鹿だから拳だけでどうにかするだろ、馬鹿だな」
 喋っていると喉元に胃液の混ざった酒が込み上げて、気持ち悪くなってきた。
「おえ、ちょっと横になるわ」
「次世代の希望3の可愛い愚痴もっと聞きたいな、ハイよいしょ!」
 床に横になると、名誉卒業生が手拍子しながら話の続きを促してきた。レオナは気持ち悪くなりながらも愚痴はつきないので、それに乗る。
「この前なんか、マジフトに誘ったらよ、あ今日デュースとマジホイ見に行くんでって断ってきやがった。このオレが、珍しくマジフトをするっていうのに、んでもって珍しく誘ってやったのに、あいつは一言で断りやがった。なんなんだボケカス」
 横になりながら器用に持っていたグラスを、ダンと床に叩きつける。酒はこぼれた。
「いやそれは先約を優先するハウルが正しいっしょアいってぇ」
 次世代の希望2がぼそりと呟くが、仙人に愉快な愚痴を邪魔するなと叩かれる。
「ただでさえあいつはラギーばっか優先するっていうのに、さらにフェイスペイント共が加わったら俺は何番目だって言うんだ、ああ?」
 まぢムリやんぢゃうぽょふぇぇ。。。
 監督生に教わった、気分が最悪なときに使う覚えたての呪文を唱えた。吐き気を催した。
「カスじゃんかよ……うぉぇええ……俺のこと好きじゃないジャックなんかジャックじゃねえだろ……」
 目の奥が熱くなってきた。
「しかもよ、最近1Aどころじゃねえんだ。手袋投擲永久機関の1年に胸筋触らせてたのを見た。俺は見た。見ちまったんだ。俺だってまだ触ってないのによお。おえぇぇぇ……なんなんだあのボケカス野郎は。いいスジしてっから目をかけてたらよお、抜け駆けしやがって。同級生だからってなんでも許されると思うな馬鹿。飛びっぷりはいいんだが手癖が悪い。次期レギュラー候補だと思ってたのに裏切られた」
 まぢ信ぢらんない1年生こゎょ。。。
 監督生に教わった、もう一つの呪文を唱えた。喉奥で吐瀉物の味がした。まぢ最悪。。。
「出来上がってる次世代の希望3は何度見ても最高だな」
 仙人が一杯呷り、大笑いした。
「ほら、そこのはな垂れ狼も覗き見しとらんでよ。こっちに来い」
 柱の陰でずっと飲んだくれパーティの様子を見ていたジャックを呼んだ。
 ジャックはするりと現れ、「やっぱり気づいてましたか」と顔をしかめた。
「獣人相手に気配を殺せると思うな。お前だってすぐ気づくだろう」
「っすね」
「さて。飲むか?」
「いえ。酔っ払いを引き取りに来たんで」
 仙人がグラスを差し出すがそれを断り、ジャックは無様な格好で寝転がるレオナを見下ろした。
「先輩」
 ジャックの声にレオナは顔を上げる。
「おえっ……ジャックの声がする」
 そして、すこんと寝た。
 ジャックはため息をついて、レオナを肩の上に担ぎ上げた。腹が圧迫されてレオナがうめく。
「そこで吐かないでくださいよ」
「世話になるな」
「まあ、後輩なんで」
 頭を軽く下げ、談話室を後にした。
 冷たく暗い廊下を歩き、寮長室のドアを蹴り開けた。そしてぐちゃぐちゃに散らかった毛布の乗ったベッドに荷物を転がした。酔っ払いは苦しそうな声を漏らし、毛布をかき集めて寝息を立て始めた。
 苦しいかもしれない。とベストのボタンを外し、シャツのボタンも腹ほどまで外してやり、ベッドの隅に座った。
「これで明日まったく覚えてないからたちが悪い」
 酔っ払うたびにジャックへの思いを吐露するレオナは寮内の名物で。ジャックがレオナを慕っていることも寮内の誰もが知っていることであり。いつくっつくのかと留年勢の賭けのネタにもされていた。酔っ払ったレオナを部屋に突っ込むのはいつの間にかジャックの役目になっていて、今日で二桁目となった。
 気持ちよさそうに高いびきをかく思い人を見て、とんでもない人に恋をしてしまったとジャックはため息をついた。
 素面のときに正面から言ってくれたら。
 一人だけ何も知らない男に、声にならない思いを告げた。


頒布2023.5.3

レオジャク,SS

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