これはおいしいお寿司

No.23

初夏

–初夏のまどろみ

 外に出ると、空の青さに目を灼かれた。
 ジャックは目を細め、植物園に足を運ぶ。
 探し人は簡単に見つかった。
 健やかな寝息を立て、ゆっくりと上下する腹を天に見せ、ぐっすりと眠っている。
 小さな耳と鼻はジャックの存在を察知しているようだったが、本体はぴくりとも動かない。
 ジャックは声をかけようとして、レオナの隣にそっと腰を下ろした。
 ふわりと人工的な風が植物園をそよ吹いた。
 レオナの長い前髪が風に吹かれてゆらめく。
 青々とした香りが漂い、草を伝うテントウムシが羽根を広げた。
 陽光が降り注ぎ、チョコレートブラウンの髪は熱を帯びていた。
 眩しいと言わんばかりに、レオナは眉間に皺を寄せる。
 ジャックは静かに太陽を遮る場所に移動し、レオナの顔に影を作った。
 ほっとしたように、眉間の皺が薄くなる。
 そっと、レオナの伏せられた目にかかる前髪を払う。
 くすぐったそうに睫毛が震えるが、眠りから目覚める気配はない。
 起こそうと手を伸ばして、レオナの髪を弄ぶ。
 手触りの良い髪は、さらりとジャックの手からこぼれ落ちていく。
 早く起きてほしいような、もう少しこのままでいてほしいような。
 ジャックはまだレオナを起こせずにいた。
 
 くしゅん、とレオナから小さなくしゃみが聞こえた。
 眠っていれば体温は下がり、いくら気温が管理された植物園でも寒さを感じる。
 そして太陽の温度はすべてジャックの背中が受け止めている。
 しばし考え、熱くなったブレザーを脱ぎ、レオナにかけた。
 レオナはもぞもぞとジャックのブレザーを無意識下に調整し、居心地のよい場所を見つけて落ち着いた。
 すん、と小さな鼻がブレザーの香りを嗅ぎ、レオナの薄い唇がゆるく弧を描いたように見えた。
 瞬間、堪らなくなってジャックはその唇に自分の唇を押し当てた。
 ジャックよりほんの少し冷ややかで柔らかい。
 触れるだけですぐ離れたが、土と草とレオナの香りがジャックをくらくらと何もわからなくさせる。
 レオナは目を瞑ったまま、深い吐息を漏らした。
 やってしまった、とジャックが少しの自己嫌悪に苛まれながら体を起こす。
 と、首の牙を引っ張られた。
 瞬きする間もなくレオナの夏色の瞳が眼前に迫り、先ほどより温度が上がった唇が触れる。
 触れて、少し離れてまた触れて。
 ジャックはわけもわからないまま翻弄され、気づけば瞼を強く閉じて、与えられる熱に夢中になっていた。
 いつの間にか起き上がっていたレオナの手がジャックの髪を撫で、耳をくすぐる。
 耳、頬、首筋と辿られてぞわりと体中の毛が逆立った。
 唇にぬるりと熱いものが当てられ、驚いてレオナの胸を突き飛ばす。
「び……っくりした……」
「先に好き勝手したのはお前だろ」
 唇を手の甲で拭って笑うレオナに、ジャックは鼓動を揺らした。
「だって、寝てると思って。いつから起きていたんですか」
「いつから? お前の足音がデカいと思ったときからかもな」
「最初からじゃないですか! 気づいてたなら起きてくださいよ。ラギー先輩が呼んでました」
「んー、もう少し寝る」
 面倒くさそうにレオナは顔をしかめ、また横になった。
「ちょっと、レオナ先輩!」
「お前も少し休んでいけよ」
 地面についていた手を引っ張られ、ジャックはバランスを崩して倒れた。
「いってえ」
「ほら、目を瞑れ」
 隣に横たわるレオナの手がジャックの瞼に被さる。
 薄暗い中、土と草とレオナの香りがジャックの体内を駆け巡る。
「このまま寝ちまったら共犯だなァ」
 レオナの笑い声が聞こえる。
 耳元に心臓があるかのように鼓動がうるさい。
 少しレオナの声が聞こえなくなったと思いきや、やがて安定したリズムの寝息が聞こえてきた。
 ジャックの目元に手を置いたまま、レオナは先に眠ってしまったようだった。
 こんな緊張感の中で眠れるわけがない。
 指一本動かすこともできず、ジャックは息をひそめて固まっていたが、レオナの寝息に眠気を誘われ、いつの間にか深いところへ意識を潜らせていた。
 完全に意識が途切れる直前、レオナの腕に引き寄せられる感覚があった。
 たまにはこんな時間も悪くないかもしれない。
 青空と白い入道雲が眩しい午後。
 蝶の羽ばたきが耳をくすぐり、夏の到来を告げた。

 

 

Twitter投稿2025.5.7

レオジャク,SS

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