これはおいしいお寿司

No.24

朝の眠り

–朝だ! おやすみ!

 まぶたを通り抜ける光に、朝の訪れを感じた。
 ジャックはゆっくりと目を開ける。
 スマホを見ると、まだアラームが鳴る前の時間だった。
 夏の到来とともに朝が早くなってきている。
 隣でまだすやすやと眠る恋人を起こさないよう、アラームを消す。
 日付が変わる前に眠気に負けて先に寝てしまったが、レオナは何時まで起きていただろうか。
 昨日、オレンジ色のゆるりとした灯りの下で、ベッドに腰掛けたレオナはなにやらむずかしい本をじっくりと読んでいた。ジャックは毛布に潜り込んで、その姿をずっと眺めていた。
 レオナは一度本に夢中になると周りが見えなくなってしまうが、ジャックが漏らしたあくびに顔を上げ、寝るようにと声をかけてきた。
 集中していなかったんだとジャックは少し笑い、まぶたを閉じた。額に湿ったやわらかさと可愛らしい音を感じた。
 そうして眠りに落ちる直前まで、やさしい手のひらが頭を撫でていた。
 
 目を覚ます気配のないレオナの、目元まで隠す前髪をそっとどける。
 左のまぶたをまっすぐ走る傷跡があらわれた。
 きっと夜更かししていたであろうレオナのまつげが、陽の光を感じて小さくふるえた。
 ジャックは、日中は編まれているさらさらの髪を一房手に取る。
 くるりと毛先が好き勝手に跳ねるチョコレート色の髪は自由奔放なレオナそのもののようで、ジャックの指からするりと落ちていく。
 早く起きてほしいのに、レオナの朝はずっとあとにならないと来ない。
 走る時間までだから、と心のうちでつぶやいてジャックはレオナのやわらかな髪をさわる。
 どれだけそうしていただろうか。
 レオナのまぶたがゆっくりと開いて、夏の草原が顔をのぞかせる。
 一回、二回とまばたきをして、レオナの瞳がジャックに焦点を合わせた。
「おはようございます、レオナ先輩」
「……はよ」
「めずらしく早いっすね」
「誰かさんの手が熱かったからな」
 くあ、と大きく口をあけてレオナはあくびをした。真っ白な牙が陽射しに光る。
 前髪を邪魔そうに掻き上げると、ジャックのものより少し狭い額があらわれる。
「昨日は何時まで起きてたんすか」
「さあな」
 もう一度レオナはあくびをした。
「これから走りに行くんすけど、レオナ先輩はもう少し寝ていてください」
「……ああ」
 眠たげにまばたきをして、レオナの手がジャックのほうへ伸びた。
「あのはねっかえりの前髪が、大人しいじゃねえか」
 まだセットをしていない、重力に従って垂れ下がったジャックの前髪をレオナが撫でる。
「同じ言葉、そっくりそのまま返します」
「……そうかよ」
 レオナは口元を小さくほころばせた。
「それじゃ、走ってきます。そのまま学園に行くんで、ちゃんと起きて授業に出てくださいね」
「あーはいはい」
 ジャックが上体を起こすと、レオナは毛布に潜って二度寝をする体勢になっていた。
 早くもまぶたは閉じられ、もう既に現実と夢の狭間にいることだろう。
 前髪のすきまから見える額に吸い込まれるように、ジャックはそっと口づけた。
「おやすみなさい、レオナ先輩」

 

 

Twitter投稿2025.8.1

レオジャク,SS

戻る