これはおいしいお寿司
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No.30
アドベントカレンダー2024
-4日目
一日中どこか上の空だった。と思う。
授業はしっかり受けて、部活もきちんと全力を出した。
ただ、夜のことが常にちらついていた。
夕食前と後どちらがいいか、寝る前に向かうのも悪くないかもしれない、深夜まで頑張って起きて向かってもいいかもしれない。
ずっとそんなことばかり考えていた。
なんとなくで買って、なんとなく毎日開けようと思っていたのに、毎日レオナと中身を確認するのが少し楽しみになってしまっている。
そう、少し。少しだけ。
別にレオナに構ってもらえる理由ができたことに喜ぶなんてことは、ない。
普段突き放されることが多いから、近くにいていい理由ができて嬉しいなんて。
ジャックは深くため息をついた。
憧れの人と時間を共有できて喜んでいることを認めよう。
理想の人格の持ち主ではないだとか、どうしてマジフトではなくお菓子のびっくり箱開封作業に付き合ってもらっているのかとか、些細な問題だ。
そもそも自分用に買ったカレンダーなのに……という気持ちがまた湧いてくる前に、今日の分を開けてしまおう。
部活終わり、汗を流してその足でレオナの部屋へ向かった。
これから夕食という時間だが、部屋にいるだろうか。
メッセージを一通送れば確認ができるのに、足は止まらなかった。
逸る心を落ち着けて、レオナの部屋のドアをノックする。
返事はなかったが、人の気配がした。
不在でないことに安心してジャックは部屋に入った。
果たしてレオナは眠っていたが、体が九十度回転し、頭と足がベッドからはみ出ていた。
見たことのない寝相に、ジャックは唖然として立ち尽くした。
「う……ジャックか……?」
ジャックが動けないでいると、レオナはベッドから落ちている頭をわずかに上げ、苦しそうな声を発した。苦しそうなのはベッドの枠が肺を圧迫しているからだろう。
「ジャックっすけど……寝汚ねえ……」
こんな寝にくい格好でも覚醒しきれていないのは、さすがと言うべきか。
「部活終わったんで来たんすけど、出直したほうがいいっすか?」
疲れているなら無理に起こす理由もない。できれば今日のうちに起きているレオナに会いたいが。
「……いや、いい……」
怠そうにうめき、レオナはのっそりと起き上がった。
「いつも以上に目覚めが悪そうっすね」
「寝過ぎて頭いてえ」
どうやら自業自得のようなので、ジャックは気を遣うのをやめた。
「夕飯前っすけど、開けていいですか」
「おう。どうせ飯が食えなくなるようなもんは入ってないからな」
がしがしと頭を掻いて、レオナは机の上を指差した。
早く持ってこい、ということか。
ジャックはアドベントカレンダーをベッドの上に運び、隅に腰掛ける。
今日は何が出てくるだろう。
わくわくしながらそっと引き出しを開けた。
特に特徴のない甘い香りが広がる。
透明なパッケージの中には、白くて丸いものが入っている。
つつくと柔らかい。
「マシュマロっすね」
余計な味はついていないようで、ホッとした。
「先輩はマシュマロ食べたことありますか?」
マシュマロといえば、よくバーベキューのときに焚き火で焼いていたことを思い出し、レオナはどうなのだろうと話を振った。
「食べるというより、ホットココアに入れて飲んだことがあったな」
レオナはマシュマロをつまみ、じっと見つめながらゆっくり話した。
「ここに入学してからの話だ。国にマシュマロはなかったから、購買部で見かけたときに寮生にこれはなんだと聞いたら、甘い菓子だと言われた。寝る前にホットココアに浮かべるとよく眠れるんだと。ココアも国で飲んだことはなかったから、そいつに作らせた。その一回きりだ」
輸入品でカカオを見たことはあった気がするが、チョコレートに加工されてたまに口にした程度だ。と懐かしむようにレオナは目を細めた。
「おいしかったですか?」
「甘かった」
ココアを作ったそいつが無類の甘い物好きだった、と少し苦い顔をする。
「マシュマロそのものが結構甘いっすからね」
実家では冬の夜に砂糖を控えたココアを飲んでいたことを、ジャックは思い出した。
「ココアを作った人は寒いところ出身かもしれないっすね。雪国じゃ寒い夜に温かくて甘いものを飲むのは定番だったんで。ホットココアとか、ホットミルクとか」
ココアで温まったマグカップを両手で包み、少しずつ飲むと体中がじんわりと温まる感覚が好きだった。
「そうか。寮だとそこまで寒くなることはないが……食堂で夕飯のあとにココアでも飲むか」
冬のサバナクロー寮は肌寒い程度だが、学園のほうはだいぶ寒さが厳しくなっている。ココアを飲むのにぴったりの気候だ。
「いいですね。食堂にカフェメニューってありましたっけ」
「ココアくらいあるだろ」
「確かに。マシュマロはこれでいっか……」
ジャックはマシュマロをポケットに入れ、立ち上がる。
「じゃ、先輩飯食いに行きましょうか」
「ああ」
レオナもマシュマロ片手にベッドから降りる。
「今日の日替わり、なんだと思います?」
「知らねえ」
「そういや日替わり定食って先輩が食べてるの、見たことない気がします」
「あれ、肉少ないだろ」
二人は寮内の廊下を並んで歩く。
「栄養バランスはすごく考えられてますけど」
「草が多すぎる」
「こんな偏った食事なのに筋肉がしっかりついてるの、納得いかねえ」
「必要な筋肉しかつけてねえからな。お前は見栄え込みだろ」
「俺だって必要最低限の筋肉っすよ。つけすぎると重くなるんで」
「にしてもだ」
人とココアを飲むのはいつぶりだろうか。
軽口を叩きながら、ジャックはポケットのマシュマロをそっと触る。
偶然ではなく、明確な意志の下でレオナと食事を取るのは初めてかもしれない。
少しくすぐったい気持ちになる。
緩む頬を引き締め、ゆっくりと歩みを進めた。
「やっぱり小皿一枚分は野菜食わねえと」
「絶対嫌だ」
Twitter投稿2024.12.5
レオジャク
,
アドベントカレンダー2024
,
SS
2026.1.15
No.30
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授業はしっかり受けて、部活もきちんと全力を出した。
ただ、夜のことが常にちらついていた。
夕食前と後どちらがいいか、寝る前に向かうのも悪くないかもしれない、深夜まで頑張って起きて向かってもいいかもしれない。
ずっとそんなことばかり考えていた。
なんとなくで買って、なんとなく毎日開けようと思っていたのに、毎日レオナと中身を確認するのが少し楽しみになってしまっている。
そう、少し。少しだけ。
別にレオナに構ってもらえる理由ができたことに喜ぶなんてことは、ない。
普段突き放されることが多いから、近くにいていい理由ができて嬉しいなんて。
ジャックは深くため息をついた。
憧れの人と時間を共有できて喜んでいることを認めよう。
理想の人格の持ち主ではないだとか、どうしてマジフトではなくお菓子のびっくり箱開封作業に付き合ってもらっているのかとか、些細な問題だ。
そもそも自分用に買ったカレンダーなのに……という気持ちがまた湧いてくる前に、今日の分を開けてしまおう。
部活終わり、汗を流してその足でレオナの部屋へ向かった。
これから夕食という時間だが、部屋にいるだろうか。
メッセージを一通送れば確認ができるのに、足は止まらなかった。
逸る心を落ち着けて、レオナの部屋のドアをノックする。
返事はなかったが、人の気配がした。
不在でないことに安心してジャックは部屋に入った。
果たしてレオナは眠っていたが、体が九十度回転し、頭と足がベッドからはみ出ていた。
見たことのない寝相に、ジャックは唖然として立ち尽くした。
「う……ジャックか……?」
ジャックが動けないでいると、レオナはベッドから落ちている頭をわずかに上げ、苦しそうな声を発した。苦しそうなのはベッドの枠が肺を圧迫しているからだろう。
「ジャックっすけど……寝汚ねえ……」
こんな寝にくい格好でも覚醒しきれていないのは、さすがと言うべきか。
「部活終わったんで来たんすけど、出直したほうがいいっすか?」
疲れているなら無理に起こす理由もない。できれば今日のうちに起きているレオナに会いたいが。
「……いや、いい……」
怠そうにうめき、レオナはのっそりと起き上がった。
「いつも以上に目覚めが悪そうっすね」
「寝過ぎて頭いてえ」
どうやら自業自得のようなので、ジャックは気を遣うのをやめた。
「夕飯前っすけど、開けていいですか」
「おう。どうせ飯が食えなくなるようなもんは入ってないからな」
がしがしと頭を掻いて、レオナは机の上を指差した。
早く持ってこい、ということか。
ジャックはアドベントカレンダーをベッドの上に運び、隅に腰掛ける。
今日は何が出てくるだろう。
わくわくしながらそっと引き出しを開けた。
特に特徴のない甘い香りが広がる。
透明なパッケージの中には、白くて丸いものが入っている。
つつくと柔らかい。
「マシュマロっすね」
余計な味はついていないようで、ホッとした。
「先輩はマシュマロ食べたことありますか?」
マシュマロといえば、よくバーベキューのときに焚き火で焼いていたことを思い出し、レオナはどうなのだろうと話を振った。
「食べるというより、ホットココアに入れて飲んだことがあったな」
レオナはマシュマロをつまみ、じっと見つめながらゆっくり話した。
「ここに入学してからの話だ。国にマシュマロはなかったから、購買部で見かけたときに寮生にこれはなんだと聞いたら、甘い菓子だと言われた。寝る前にホットココアに浮かべるとよく眠れるんだと。ココアも国で飲んだことはなかったから、そいつに作らせた。その一回きりだ」
輸入品でカカオを見たことはあった気がするが、チョコレートに加工されてたまに口にした程度だ。と懐かしむようにレオナは目を細めた。
「おいしかったですか?」
「甘かった」
ココアを作ったそいつが無類の甘い物好きだった、と少し苦い顔をする。
「マシュマロそのものが結構甘いっすからね」
実家では冬の夜に砂糖を控えたココアを飲んでいたことを、ジャックは思い出した。
「ココアを作った人は寒いところ出身かもしれないっすね。雪国じゃ寒い夜に温かくて甘いものを飲むのは定番だったんで。ホットココアとか、ホットミルクとか」
ココアで温まったマグカップを両手で包み、少しずつ飲むと体中がじんわりと温まる感覚が好きだった。
「そうか。寮だとそこまで寒くなることはないが……食堂で夕飯のあとにココアでも飲むか」
冬のサバナクロー寮は肌寒い程度だが、学園のほうはだいぶ寒さが厳しくなっている。ココアを飲むのにぴったりの気候だ。
「いいですね。食堂にカフェメニューってありましたっけ」
「ココアくらいあるだろ」
「確かに。マシュマロはこれでいっか……」
ジャックはマシュマロをポケットに入れ、立ち上がる。
「じゃ、先輩飯食いに行きましょうか」
「ああ」
レオナもマシュマロ片手にベッドから降りる。
「今日の日替わり、なんだと思います?」
「知らねえ」
「そういや日替わり定食って先輩が食べてるの、見たことない気がします」
「あれ、肉少ないだろ」
二人は寮内の廊下を並んで歩く。
「栄養バランスはすごく考えられてますけど」
「草が多すぎる」
「こんな偏った食事なのに筋肉がしっかりついてるの、納得いかねえ」
「必要な筋肉しかつけてねえからな。お前は見栄え込みだろ」
「俺だって必要最低限の筋肉っすよ。つけすぎると重くなるんで」
「にしてもだ」
人とココアを飲むのはいつぶりだろうか。
軽口を叩きながら、ジャックはポケットのマシュマロをそっと触る。
偶然ではなく、明確な意志の下でレオナと食事を取るのは初めてかもしれない。
少しくすぐったい気持ちになる。
緩む頬を引き締め、ゆっくりと歩みを進めた。
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