これはおいしいお寿司
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No.32
アドベントカレンダー2024
-6日目
「先輩、ちょっと外出ませんか」
夕食後にレオナの部屋を訪れ、ジャックはアドベントカレンダーを手に取りながらレオナに声をかけた。
「別にいいが。珍しいな」
「今日は雲がかかってないから、星がきれいに見えるとさっき談話室で聞いたんで」
「うちにも趣深い奴がいるもんだな」
レオナは鼻で笑い、部屋の窓を大きく開けた。
「先輩、どっから外に出る気っすか?」
部屋の出口に向かいかけていたジャックは目を丸くした。
「いい天気なんだろ? 足使って外に出るのは勿体ない」
窓から身を乗り出し、レオナがマジカルペンを一振りすると、遠くから風を切り裂く音が近づいてきた。
何事かとジャックは外を覗く。
と、光のような速さで二本の箒が飛んできて、レオナの手に収まった。
「夜の空中散歩と洒落込もうじゃねえか」
レオナに差し出され、思わず箒を受け取ってしまうが、本当に今から飛ぶのかと箒とレオナを交互に見る。
「飛べるだろ?」
ニヤリと笑い、レオナは先に窓から飛び降りる。
「せ、先輩!」
驚いて窓の下を覗きこむと、ふわりと箒に跨がったレオナが浮上してきた。
「一人で乗れないってなら、後ろに乗せてやろうか?」
シャル・ウィ・ダンスよろしく、優雅にレオナは手を差し出した。
「乗れます!」
つい語気を荒くして言い返し、カレンダーを胸に抱きかかえ、箒に跨がりながら窓から飛び出した。
勢いで飛んでしまったせいで、バランスを大きく崩して落ちていく。が、地面と接触するすんでのところでなんとか箒を制御し、高いところでゆらゆら見下ろしているレオナのところへ急上昇する。
「危ねえやつ」
目が合うやいなや、からかわれる。
「少し飛ぶのが得意じゃないだけっす」
これでも習いたての頃よりはうまくなったのだ。飛行術の授業でも、エペルには叶わないが成績は上位を保っている。
「それに、ディスク以外の物を持って飛んだことなくって……」
一人で飛べないと思われるのが嫌で、言い訳がましい口を利いてしまう。
実際、片手で箒を制御するのは難しく、マジフトの試合中にディスクを持ちながら飛ぶときは勢いでどうにかしていることが多かった。
片手だけでも難しいのに、今はレオナと話すために動きを最小限にしなくてはならず、ジャックの箒はふらふら左右に揺れていた。
「じゃあ特訓に付き合ってやろうか?」
「え、いいんですか!」
不甲斐ないと顔をしかめていたが、レオナの言葉にジャックはパッと顔を明るくした。
「明日、朝、ちゃんと起きてくれるって約束してくれますか?」
「なんでだよ。今飛んでんだから今やるに決まってんだろ」
「……先輩が朝起きるってちょっと期待したんすけど」
「馬鹿言え」
ジャックの文句を流し、レオナはジャックの箒の柄を掴みながらアレコレ言い始めた。
姿勢がなってない。
体幹を安定させろ。
柄を持っていないほうの手に垂れ流されてる魔力を片手に集中させろ。
尻尾でバランスを取れ。
同位置に静止するために魔力を巡らせ続けろ。
やがて、ジャックは以前よりふらつかずに静止することができるようになった。
「やればできるじゃねえか」
「……っす」
その代わり、制御に集中してあまり話せなくなってしまっていた。
「これじゃ星を見る余裕なんてなさそうだな」
「だ……っす」
「なんて?」
「だいじょ、ぶ、です」
額に汗を滲ませて上空を見ようと顔を上げると、途端に箒が大きく揺れた。
「まだまだだな」
「ああ、悔しい」
ジャックはため息をつき、レオナの周りをぐるりと飛んだ。
「でも止まれるようになったんで。次は集中しなくても常に止まれるように練習します」
「頑張れよ」
「はい!」
レオナの言葉に尻尾が揺れた。
「だが、俺と話してる間中ずっとぐるぐる回ってるつもりか?」
「動いてるときなら、話しててもバランス取れるんで……」
「じゃあ、俺の後ろに乗るのと窓枠に座るの、どっちか選べ」
突然の選択肢に目を見開いた。
レオナはなんてことないように、首を傾げている。
「どっちか、じゃあ窓のほう――」
「窓枠に座ってると、散歩にはならねえな。後ろに乗れ」
箒の二人乗りは恥ずかしいから窓枠を選択すると、レオナに遮られる。
「選択肢の意味がねえ」
「早く乗れよ」
「二人乗りなんて、小さい頃ぶりなんすけど」
「俺が落とすわけないだろ。お前は魔力のことは考えずに、ただ箒に乗ってるだけでいい」
大柄の二人が一本の箒に乗れるのか、バランスを保てるのか不安に思ったが、レオナは一蹴する。
ジャックはその自信満々な表情に、託すしかないと腹を決めた。
ふらつく箒をレオナの隣に寄せ、精一杯集中力を高めて静止させてから、ゆっくりとレオナの箒に移る。
ぐらり、体重移動するときに体が大きく傾いた。
すかさずレオナがジャックの腕を取り、引っ張る。
心臓の音がうるさい。
「危なっかしいな」
「落ちるかと……」
「俺じゃなかったら落ちてたな」
「すんません」
まだどきどきしている胸をぎゅっと掴む。
普段、箒の柄に立っていることが多いレオナだが、今日は珍しくずっと箒に座っている。そのおかげか、目の前に見えるレオナの背中に安心感を覚えた。
「落ち着いたか?」
「はい、大丈夫です」
ジャックの返事を聞くと、レオナはふわりと空を進んだ。
猛スピードで飛び回っている試合中とは違い、風が優しく頬を撫でる。
箒の制御から自由になった意識は、自然と上を向く。
「空が近い」
「ああ」
星の光がいつもより強く感じられる。
手を伸ばせば触れそうだ。
「月もでかい」
「ああ」
ジャックの誰ともなしに呟いた言葉に、レオナは静かに相槌を打つ。
風に吹かれて寒いはずなのに、どこか温もりを感じている。
星と星の間を縫って飛んでいるような感覚が心地よい。
この広大な星空の下で、レオナと小さな引き出しを開けたかったことを思い出した。
「先輩、今日の分、開けますか?」
「ああ。俺は前を見てるから、何が入っているか説明してくれよ」
「っす」
胸に抱えていたアドベントカレンダーを落とさないように慎重に抱え直し、引き出しをゆっくり開ける。
「これは、紅茶のティーバッグ……っすね」
「菓子じゃねえのか」
「はい。ダージリンとアッサムの二種類あります」
可愛い動物がパッケージに描かれている。
「先輩ってティーバッグで紅茶飲んだことありますか?」
「ないな――いや、もしかしたらラギーがよこす茶はティーバッグかもしれねえ」
「作り方わかりますか?」
「……お湯を入れればいいんだろ?」
一瞬の沈黙で、自信のなさがありありとわかった。
「キッチンで作ってみますか?」
「ああ」
目の前で、レオナの尻尾が左右に揺れる。喜んでいると思っていいだろうか。
「名残惜しいが、戻るか。冷えてきた」
寒いから、と言いながらもレオナの尻尾はリズミカルに揺れている。
紅茶を作るのがそんなに楽しみなのか。
レオナの好奇心の強さに、笑いを噛み殺した。
「おい何笑ってやがる」
「いえ、なんでもないです」
前屈みになって笑いを堪えていると、頭がレオナの背中にぶつかった。
互いにびくりと体が跳ね、箒が大きく揺らいだ。
「おっと……すみません、頭が当たっちまって」
「いや、気にするな」
冷え切った衣服の感触が額にこびりついている。
じわじわと恥ずかしさが込み上げてくる。
部屋に戻って顔を見られる前に、火照りを鎮めないと。
来た道を黙って戻るレオナの後ろで、一人、熱い息を吐いた。
Twitter投稿2024.12.7
レオジャク
,
アドベントカレンダー2024
,
SS
2026.1.15
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「先輩、ちょっと外出ませんか」
夕食後にレオナの部屋を訪れ、ジャックはアドベントカレンダーを手に取りながらレオナに声をかけた。
「別にいいが。珍しいな」
「今日は雲がかかってないから、星がきれいに見えるとさっき談話室で聞いたんで」
「うちにも趣深い奴がいるもんだな」
レオナは鼻で笑い、部屋の窓を大きく開けた。
「先輩、どっから外に出る気っすか?」
部屋の出口に向かいかけていたジャックは目を丸くした。
「いい天気なんだろ? 足使って外に出るのは勿体ない」
窓から身を乗り出し、レオナがマジカルペンを一振りすると、遠くから風を切り裂く音が近づいてきた。
何事かとジャックは外を覗く。
と、光のような速さで二本の箒が飛んできて、レオナの手に収まった。
「夜の空中散歩と洒落込もうじゃねえか」
レオナに差し出され、思わず箒を受け取ってしまうが、本当に今から飛ぶのかと箒とレオナを交互に見る。
「飛べるだろ?」
ニヤリと笑い、レオナは先に窓から飛び降りる。
「せ、先輩!」
驚いて窓の下を覗きこむと、ふわりと箒に跨がったレオナが浮上してきた。
「一人で乗れないってなら、後ろに乗せてやろうか?」
シャル・ウィ・ダンスよろしく、優雅にレオナは手を差し出した。
「乗れます!」
つい語気を荒くして言い返し、カレンダーを胸に抱きかかえ、箒に跨がりながら窓から飛び出した。
勢いで飛んでしまったせいで、バランスを大きく崩して落ちていく。が、地面と接触するすんでのところでなんとか箒を制御し、高いところでゆらゆら見下ろしているレオナのところへ急上昇する。
「危ねえやつ」
目が合うやいなや、からかわれる。
「少し飛ぶのが得意じゃないだけっす」
これでも習いたての頃よりはうまくなったのだ。飛行術の授業でも、エペルには叶わないが成績は上位を保っている。
「それに、ディスク以外の物を持って飛んだことなくって……」
一人で飛べないと思われるのが嫌で、言い訳がましい口を利いてしまう。
実際、片手で箒を制御するのは難しく、マジフトの試合中にディスクを持ちながら飛ぶときは勢いでどうにかしていることが多かった。
片手だけでも難しいのに、今はレオナと話すために動きを最小限にしなくてはならず、ジャックの箒はふらふら左右に揺れていた。
「じゃあ特訓に付き合ってやろうか?」
「え、いいんですか!」
不甲斐ないと顔をしかめていたが、レオナの言葉にジャックはパッと顔を明るくした。
「明日、朝、ちゃんと起きてくれるって約束してくれますか?」
「なんでだよ。今飛んでんだから今やるに決まってんだろ」
「……先輩が朝起きるってちょっと期待したんすけど」
「馬鹿言え」
ジャックの文句を流し、レオナはジャックの箒の柄を掴みながらアレコレ言い始めた。
姿勢がなってない。
体幹を安定させろ。
柄を持っていないほうの手に垂れ流されてる魔力を片手に集中させろ。
尻尾でバランスを取れ。
同位置に静止するために魔力を巡らせ続けろ。
やがて、ジャックは以前よりふらつかずに静止することができるようになった。
「やればできるじゃねえか」
「……っす」
その代わり、制御に集中してあまり話せなくなってしまっていた。
「これじゃ星を見る余裕なんてなさそうだな」
「だ……っす」
「なんて?」
「だいじょ、ぶ、です」
額に汗を滲ませて上空を見ようと顔を上げると、途端に箒が大きく揺れた。
「まだまだだな」
「ああ、悔しい」
ジャックはため息をつき、レオナの周りをぐるりと飛んだ。
「でも止まれるようになったんで。次は集中しなくても常に止まれるように練習します」
「頑張れよ」
「はい!」
レオナの言葉に尻尾が揺れた。
「だが、俺と話してる間中ずっとぐるぐる回ってるつもりか?」
「動いてるときなら、話しててもバランス取れるんで……」
「じゃあ、俺の後ろに乗るのと窓枠に座るの、どっちか選べ」
突然の選択肢に目を見開いた。
レオナはなんてことないように、首を傾げている。
「どっちか、じゃあ窓のほう――」
「窓枠に座ってると、散歩にはならねえな。後ろに乗れ」
箒の二人乗りは恥ずかしいから窓枠を選択すると、レオナに遮られる。
「選択肢の意味がねえ」
「早く乗れよ」
「二人乗りなんて、小さい頃ぶりなんすけど」
「俺が落とすわけないだろ。お前は魔力のことは考えずに、ただ箒に乗ってるだけでいい」
大柄の二人が一本の箒に乗れるのか、バランスを保てるのか不安に思ったが、レオナは一蹴する。
ジャックはその自信満々な表情に、託すしかないと腹を決めた。
ふらつく箒をレオナの隣に寄せ、精一杯集中力を高めて静止させてから、ゆっくりとレオナの箒に移る。
ぐらり、体重移動するときに体が大きく傾いた。
すかさずレオナがジャックの腕を取り、引っ張る。
心臓の音がうるさい。
「危なっかしいな」
「落ちるかと……」
「俺じゃなかったら落ちてたな」
「すんません」
まだどきどきしている胸をぎゅっと掴む。
普段、箒の柄に立っていることが多いレオナだが、今日は珍しくずっと箒に座っている。そのおかげか、目の前に見えるレオナの背中に安心感を覚えた。
「落ち着いたか?」
「はい、大丈夫です」
ジャックの返事を聞くと、レオナはふわりと空を進んだ。
猛スピードで飛び回っている試合中とは違い、風が優しく頬を撫でる。
箒の制御から自由になった意識は、自然と上を向く。
「空が近い」
「ああ」
星の光がいつもより強く感じられる。
手を伸ばせば触れそうだ。
「月もでかい」
「ああ」
ジャックの誰ともなしに呟いた言葉に、レオナは静かに相槌を打つ。
風に吹かれて寒いはずなのに、どこか温もりを感じている。
星と星の間を縫って飛んでいるような感覚が心地よい。
この広大な星空の下で、レオナと小さな引き出しを開けたかったことを思い出した。
「先輩、今日の分、開けますか?」
「ああ。俺は前を見てるから、何が入っているか説明してくれよ」
「っす」
胸に抱えていたアドベントカレンダーを落とさないように慎重に抱え直し、引き出しをゆっくり開ける。
「これは、紅茶のティーバッグ……っすね」
「菓子じゃねえのか」
「はい。ダージリンとアッサムの二種類あります」
可愛い動物がパッケージに描かれている。
「先輩ってティーバッグで紅茶飲んだことありますか?」
「ないな――いや、もしかしたらラギーがよこす茶はティーバッグかもしれねえ」
「作り方わかりますか?」
「……お湯を入れればいいんだろ?」
一瞬の沈黙で、自信のなさがありありとわかった。
「キッチンで作ってみますか?」
「ああ」
目の前で、レオナの尻尾が左右に揺れる。喜んでいると思っていいだろうか。
「名残惜しいが、戻るか。冷えてきた」
寒いから、と言いながらもレオナの尻尾はリズミカルに揺れている。
紅茶を作るのがそんなに楽しみなのか。
レオナの好奇心の強さに、笑いを噛み殺した。
「おい何笑ってやがる」
「いえ、なんでもないです」
前屈みになって笑いを堪えていると、頭がレオナの背中にぶつかった。
互いにびくりと体が跳ね、箒が大きく揺らいだ。
「おっと……すみません、頭が当たっちまって」
「いや、気にするな」
冷え切った衣服の感触が額にこびりついている。
じわじわと恥ずかしさが込み上げてくる。
部屋に戻って顔を見られる前に、火照りを鎮めないと。
来た道を黙って戻るレオナの後ろで、一人、熱い息を吐いた。
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