これはおいしいお寿司
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No.38
アドベントカレンダー2024
-12日目
今日こそは格好いい魔法を見つけるのだと、意気込んで図書館に来た。
レオナの度肝を抜くような、やるじゃねえかと褒めてもらえるような、そんな魔法を。できたらジャックにできる範囲で。
とはいっても、なんでもできるレオナのことだ。図書館の初心者向け教本に載っているような魔法は知り尽くしているに違いない。かといって、レオナも知らないような高度な魔法は使えない。生半可な準備で挑戦すれば、大事故に繋がりかねない。
となれば、ジャックが使える魔法を組み合わせる等して、新しい発想を生み出す必要がある。だが、魔法の組み合わせ――つまり重ねがけ――もまた使い方によっては大変危険なものである。何かあったときに責任を取ることは難しい。
入学してたかが数ヶ月。一年生に使える魔法は非常に少ない。火、水、木、無属性の基礎魔法をようやくコントロールできるようになったところだ。
そんな程度でも何かできないだろうか。
収穫のないまま肩を落として図書館を出た。
「ほら、開けてみろ」
放課後、レオナの部屋。
ジャックが部屋を訪れると、レオナは待ち構えていたかのように、そそくさとベッドに座らせてアドベントカレンダーを持ってきた。
今までにない勢いに若干引いたが、一体レオナは何を入れたのか好奇心には抗えず、何が出てきても驚かないように構えながら、そっと十二番目の引き出しを開いた。
またあっと驚くような仕掛けが飛び出してくるかと思いきや、昨日のジャックが入れたような小さな菓子が二つ入っているだけだった。
「うわっ」
取り出した瞬間、一口サイズの菓子が手のひらほどに膨らんだ。
思わず落としそうになり、慌てて両手で包む。
レオナは喉の奥で楽しそうに笑っていた。
「び……びっくりした。これ、縮小魔法か何かですか?」
「そんなところだ。引き出しと中身両方に魔法をかけてある。人の手に触れ、引き出しから取り出されたら元の大きさに戻るように仕掛けた」
「すげえ」
ジャックは引き出しと菓子を交互に見つめた。外観からは魔法がかかっていることに気づかない。
上級者ともなれば魔法の痕跡を追うことが容易らしいが、ジャックはまだその域に達していなかった。
「魔法はいいから、開けてみろよ」
レオナに促されて丁寧に包装された包みを開く。
「パン、すか?」
三角形に膨らんだパンのようなものが出てきた。
「いや、ドーナツだ」
「こんな形のドーナツがあるんすね」
「ああ。国でよく間食に食べられてる。ラギーは輪になったやつをよく食ってるがな」
一口食べてみると、確かにドーナツのような食感だった。
外側は油でカリッと揚げられ、内側はふんわりとしていた。
「思ったより甘くないんすね」
「ああ。砂糖は一般的なドーナツより少ない。これは甘さを出すためにココナッツミルクを使っているが、アーモンドを使うこともあるな」
「甘いのは嫌いじゃないけど、こういうシンプルな味も好きっすね」
食べながら、もう一つあったことを思い出してレオナに差し出す。
「いや、お前にやる」
「いや、先輩が食わないのに俺一人が食うわけには」
「俺がお前にやったんだから気にすんな」
「でも」
レオナを差し置いて食べることが引っかかっているが、同じものをレオナと共有したい気持ちのほうが大きかった。
なおも食い下がるジャックに根負けしてくれたようだった。
渋々一口、二口と食べるレオナを見ていると、胸の奥に温かいものが広がる。
視線に気づいたレオナと目が合い、慌ててジャックもドーナツを口に運んだ。
今度はレオナに見られている気配がする。
レオナの顔を見返せず、窓から遠くの星を眺める。
沈黙の時間が通り過ぎた。
食べ終わってもどうすればいいかわからず、所在なさげにドーナツを包んでいた紙を広げては折りたたむ。
何か話さないと。
部屋を出るにしても黙って去るわけにはいかない。
何を話せばいいのか。
一度黙ってしまうと、話し出すのに勇気がいった。
「あの」
「おい」
とりあえず声を出せばなんとかなるかもしれない、とレオナのほうを向きながら口を開いたら、運悪く被ってしまった。
「先輩からどうぞ」
「いや、たいしたことじゃねえ」
「俺も別に……」
また沈黙が流れる。
ただ、なんとなくおかしくなってしまって笑いが込み上げてきた。
バレたらまずいと俯いて押し殺すが、笑ったらまずいと思えば思うほどおかしくて体が震えてくる。
「ジャック」
バレたかとレオナを見ると、唇は弧を描いていた。
「笑いたかったら笑っていいぞ」
「いや、笑うところじゃないのに……ははっ」
一度声を発してしまえば、抑えていた笑いが溢れ出てくる。
ジャックの笑い声に合わせて、レオナも楽しそうに笑みを浮かべていた。
「お前も俺の国に来たときは案内してやる」
昨日の話の続きだろう。
機嫌よくレオナは話す。
「俺が直々に国の隅々までな。そのときは目の前で揚げられたドーナツも食べさせてやる。あとは、お前の名前のフルーツがあるから、それもだ」
「本当ですか。楽しみにしてます」
昨日と同じように実現しないだろうと思いつつも、本やテレビでしか見たことのない夕焼けの草原に降り立つレオナの姿を想像し、胸を高鳴らせた。
期待してはいけないと自戒し、咳払いを一つ。
「明日は俺の番すね」
十三番目の引き出しに何を入れるかまだ決まっていない。
ずっと悩んではいるが、それ自体が楽しかった。
残り十二個となった引き出しのことは考えないようにして、突飛な発想が降ってこないかとココナッツの香りが残る人差し指を舐めた。
Twitter投稿2024.12.18
レオジャク
,
アドベントカレンダー2024
,
SS
2026.1.15
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今日こそは格好いい魔法を見つけるのだと、意気込んで図書館に来た。
レオナの度肝を抜くような、やるじゃねえかと褒めてもらえるような、そんな魔法を。できたらジャックにできる範囲で。
とはいっても、なんでもできるレオナのことだ。図書館の初心者向け教本に載っているような魔法は知り尽くしているに違いない。かといって、レオナも知らないような高度な魔法は使えない。生半可な準備で挑戦すれば、大事故に繋がりかねない。
となれば、ジャックが使える魔法を組み合わせる等して、新しい発想を生み出す必要がある。だが、魔法の組み合わせ――つまり重ねがけ――もまた使い方によっては大変危険なものである。何かあったときに責任を取ることは難しい。
入学してたかが数ヶ月。一年生に使える魔法は非常に少ない。火、水、木、無属性の基礎魔法をようやくコントロールできるようになったところだ。
そんな程度でも何かできないだろうか。
収穫のないまま肩を落として図書館を出た。
「ほら、開けてみろ」
放課後、レオナの部屋。
ジャックが部屋を訪れると、レオナは待ち構えていたかのように、そそくさとベッドに座らせてアドベントカレンダーを持ってきた。
今までにない勢いに若干引いたが、一体レオナは何を入れたのか好奇心には抗えず、何が出てきても驚かないように構えながら、そっと十二番目の引き出しを開いた。
またあっと驚くような仕掛けが飛び出してくるかと思いきや、昨日のジャックが入れたような小さな菓子が二つ入っているだけだった。
「うわっ」
取り出した瞬間、一口サイズの菓子が手のひらほどに膨らんだ。
思わず落としそうになり、慌てて両手で包む。
レオナは喉の奥で楽しそうに笑っていた。
「び……びっくりした。これ、縮小魔法か何かですか?」
「そんなところだ。引き出しと中身両方に魔法をかけてある。人の手に触れ、引き出しから取り出されたら元の大きさに戻るように仕掛けた」
「すげえ」
ジャックは引き出しと菓子を交互に見つめた。外観からは魔法がかかっていることに気づかない。
上級者ともなれば魔法の痕跡を追うことが容易らしいが、ジャックはまだその域に達していなかった。
「魔法はいいから、開けてみろよ」
レオナに促されて丁寧に包装された包みを開く。
「パン、すか?」
三角形に膨らんだパンのようなものが出てきた。
「いや、ドーナツだ」
「こんな形のドーナツがあるんすね」
「ああ。国でよく間食に食べられてる。ラギーは輪になったやつをよく食ってるがな」
一口食べてみると、確かにドーナツのような食感だった。
外側は油でカリッと揚げられ、内側はふんわりとしていた。
「思ったより甘くないんすね」
「ああ。砂糖は一般的なドーナツより少ない。これは甘さを出すためにココナッツミルクを使っているが、アーモンドを使うこともあるな」
「甘いのは嫌いじゃないけど、こういうシンプルな味も好きっすね」
食べながら、もう一つあったことを思い出してレオナに差し出す。
「いや、お前にやる」
「いや、先輩が食わないのに俺一人が食うわけには」
「俺がお前にやったんだから気にすんな」
「でも」
レオナを差し置いて食べることが引っかかっているが、同じものをレオナと共有したい気持ちのほうが大きかった。
なおも食い下がるジャックに根負けしてくれたようだった。
渋々一口、二口と食べるレオナを見ていると、胸の奥に温かいものが広がる。
視線に気づいたレオナと目が合い、慌ててジャックもドーナツを口に運んだ。
今度はレオナに見られている気配がする。
レオナの顔を見返せず、窓から遠くの星を眺める。
沈黙の時間が通り過ぎた。
食べ終わってもどうすればいいかわからず、所在なさげにドーナツを包んでいた紙を広げては折りたたむ。
何か話さないと。
部屋を出るにしても黙って去るわけにはいかない。
何を話せばいいのか。
一度黙ってしまうと、話し出すのに勇気がいった。
「あの」
「おい」
とりあえず声を出せばなんとかなるかもしれない、とレオナのほうを向きながら口を開いたら、運悪く被ってしまった。
「先輩からどうぞ」
「いや、たいしたことじゃねえ」
「俺も別に……」
また沈黙が流れる。
ただ、なんとなくおかしくなってしまって笑いが込み上げてきた。
バレたらまずいと俯いて押し殺すが、笑ったらまずいと思えば思うほどおかしくて体が震えてくる。
「ジャック」
バレたかとレオナを見ると、唇は弧を描いていた。
「笑いたかったら笑っていいぞ」
「いや、笑うところじゃないのに……ははっ」
一度声を発してしまえば、抑えていた笑いが溢れ出てくる。
ジャックの笑い声に合わせて、レオナも楽しそうに笑みを浮かべていた。
「お前も俺の国に来たときは案内してやる」
昨日の話の続きだろう。
機嫌よくレオナは話す。
「俺が直々に国の隅々までな。そのときは目の前で揚げられたドーナツも食べさせてやる。あとは、お前の名前のフルーツがあるから、それもだ」
「本当ですか。楽しみにしてます」
昨日と同じように実現しないだろうと思いつつも、本やテレビでしか見たことのない夕焼けの草原に降り立つレオナの姿を想像し、胸を高鳴らせた。
期待してはいけないと自戒し、咳払いを一つ。
「明日は俺の番すね」
十三番目の引き出しに何を入れるかまだ決まっていない。
ずっと悩んではいるが、それ自体が楽しかった。
残り十二個となった引き出しのことは考えないようにして、突飛な発想が降ってこないかとココナッツの香りが残る人差し指を舐めた。
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