これはおいしいお寿司

No.40

アドベントカレンダー2024

-14日目

 昨日、レオナの前から逃げ出してしまったことを後悔していた。
 頬の熱は一晩経ってもまだ残っている気がした。
 今日もレオナのところへ行かなくてはいけないのに、昨日のことを思い出すと足が重い。
 ジャックはレオナの部屋の扉の前で、何度もノックしようとしては拳を下ろしていた。
 かれこれ十数分そうしていただろうか。部屋の中から声が聞こえた。
「入るなら入れよ」
 レオナにそう言われたら、入るしかない。
 ジャックは意を決して足を踏み入れた。
「いつもすぐ入ってくるのに、どうした?」
 ベッドに座っているレオナは訝しげな顔をしているが、それ以外は何も変わらないように見えた。
 昨日のことを思い出して狼狽えていたのは自分だけかと、ジャックは恥ずかしくなり、同時に少しがっかりしていた。
 レオナに振り回されるのはいつものことだが、昨日のあれはレオナにとってなんでもないことだと示されることに、苛立ちを覚える。
 むすっとした顔でベッドに腰掛けた。
「別に、なんでもないっす」
「機嫌悪そうだな」
「いつも通りですけど」
 ツンとした声で返事をしてしまう。
「誰かにデザートでも食われたか?」
「そのくらいで腹立てたりしねえっす」
「じゃあ、なんだ」
「先輩には関係ないっす」
 レオナの顔を見られず、そっぽを向いてしまう。これではレオナに関係があると言っているようなものだ。
「まあ、いい。これでも開けて機嫌直せよ」
 レオナはアドベントカレンダーを示しながら、ジャックの髪をぐしゃぐしゃと掻き回す。
「だ、だから子ども扱いすんな……!」
 ジャックは咄嗟にレオナの手を払いのけ、両手で頭を抱えて守った。レオナのいたずらな手のせいで、昨日からおかしくなってしまってるのだ。
「ガキ扱いするかよ。いいから開けようぜ」
 フン、とレオナは鼻で笑った。
 あまり引きずっているとまたからかわれるので、渋々引き出しを開ける。
 中はクリスマスシーズンによく見かける人型のクッキーだった。
 ありふれた菓子が入っていたことに意外だと思いながら、一口サイズのクッキーを口に放り込んだ。
 ショウガがぴりりと効いている。
「ジンジャークッキーですか?」
「ああ。たまにはクリスマスっぽいのもいいだろ」
「毎年家族と食べていたのを思い出します」
 優しい甘さとスパイスの香りに、とげとげしかった心が少しずつ落ち着いてくるのを感じた。
「これは購買で買ったんすか?」
「いや、エペルが部活の休憩中に食ってたからもらった」
 言いながらレオナは机の上に置いてあったビニール袋から、様々な形のジンジャークッキーを取り出して食べた。ビニール袋には「林檎と小麦粉」と油性ペンでデカデカと書かれていた。実家から食べ物など送られてきたときの袋を再利用しているのかもしれない。
「エペルの手作り……じゃないっすよね」
「いや、実家の誰某が作りすぎたから送ってきたんだと」
「ああ、なるほど」
 手作りと既製品の味の違いはわからないが、手作りと聞けばなんとなく温かみを感じる。単純すぎるかもしれない。
「明日エペルに礼を言わねえと」
「お前は律儀だな」
「当然じゃないっすか。それにしても、珍しいですね。また先輩の国の食べ物か、すごい魔法かと思ってました」
「エペルから押しつけられたときはなんとも思っていなかったんだが、食べてみたら思いのほかうまかったからな」
 何個目かわからないクッキーを摘まみ、レオナは静かに笑みを浮かべた。
 何を思って笑っているのだろう。
 その笑みの先に誰かいるのだろうか。
 ジャックは胸にちくりと棘が刺さったような痛みを覚えた。
 不思議になって胸の辺りを触るが、特に異常はない。
「どうした?」
「いえ、なんでも……」
 何が起きたのか自分でも理解できないものを、どう答えればいいかわからなかった。
 ただ、レオナの柔らかな笑みを向けられたジンジャークッキーが急に憎たらしくなった。
 感情の走るままに、クッキーを持っているレオナの手を掴んで、そのままクッキーを食べた。
「……うまい」
 悲しいくらいにおいしい。
 自分で作って、この味は出せるだろうか。
 これ以上においしいクッキーを作れるだろうか。
 悔しさも悲しみも、スパイスがかき消して、満足感だけが舌に残る。
 呆然として動かないレオナを見て、ジャックは今日初めて笑った。

 

 

Twitter投稿2024.12.22

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