これはおいしいお寿司

No.44

アドベントカレンダー2024

-18日目

 引き出しの中から小さなケーキの箱を取り出すと、急激に大きくなった。
 またレオナが魔法を重ね掛けしたのだろう。
 中には美しい洋ナシのタルトがワンホール入っていた。
「先輩、これどこのケーキっすか?」
 均等に並べられた洋ナシはニスを塗ったようにツヤツヤと輝き、素人の手作りではなさそうだ。
 ケーキ箱に店の名前は記載されていなかったが、麓のケーキ屋だろうか。
 レオナがどこからか調達してきた二枚の皿にいそいそとタルトを載せ、フォークで一切れ食べる。
 芳醇な洋ナシの滑らかな食感と香ばしいタルト生地のしっとりとした食感に、目を見張る。
「おいしい」
 ジャックはフォークを握りしめてレオナを見た。
「実家に買って帰りたいんすけど、麓ですか? それとも王室のパティシエですか?」
 こんなにおいしいタルトにはなかなか出会えない。家族にも食べてほしい。
 レオナはフォークの先で行儀悪くタルトをつつき、何やら言いよどんでいた。
「隠しておきたい人とかですか……? 前科持ちだったりするんすか」
 絶対買いたいから内緒にしておくのは無しだと、強い気持ちを込めてレオナを見つめる。
 レオナはしばらくジャックと目が合わないように顔を背けていたが、折れてゆっくり口を開いた。
「誤解しないでほしいんだが……俺が好きなのはお前だからな」
 念を押すような言い方で突然告白されて、ジャックは飛び上がる。
 今、どうしてここで。
 フォークを落としかけ、慌てて握り直す。
「ええ、っと。はい、知ってます……」
 それ以外に答えようがなかった。
 ついレオナから目を逸らしてしまった。
「……このタルトはトレイが作ったやつだ。つまらねえ勘違いするなよ。俺がお前のために作ってもらったんだからな」
 真っ赤な顔のジャックに、レオナが一言一言力を込めて説明をする。
「お前のオトモダチが洋ナシを食べていたから話を聞いたら、トレイがケーキやらタルトやらたくさん作っているってことだから、一つもらってやっただけだからな。俺がトレイの手作りを食べたかったなんて思い違いするなよ」
「わ、わかってます……」
 単純で優しそうに見えて意外と一筋縄ではいかないと噂のあるトレイと、どのような取引でタルトをもらったのか少し恐ろしくなったり、レオナが自分のことを好きであると改めて感じて胸がいっぱいになったり、この前のジンジャークッキーの勘違いを思い出して恥ずかしくなったりと、顔が青や赤に染まる。
 一体いつからレオナはジャックのことを好きだったのだろう。
 あのときの勘違いのように、無意識に傷つけてしまったことがほかにもあるかもしれない。
 この、決して誤解を与えまいという必死さに痛々しささえ覚える。
「ありがとうございます。その、俺、まだ……」
 この期に及んで、なお答えを決めかねていた。
 レオナに好かれていると自覚する度に、早く返事をせねばと焦る。それでいて、この生ぬるい居心地のよさに浸っていたいとも思ってしまう。
 将来を誓わないレオナに人生を預けることも、答えを出すことでこの関係が変わってしまうことも恐ろしかった。
「慌てて答えを出すモンじゃねえから。ゆっくり考えてくれ」
 考え抜いた末に答えを出せないのに、レオナは目を細めて笑う。
 何も考えなくてよいのなら、好きだという感情だけで返事ができるのに。
 ジャックは俯いてタルトを口に運んだ。
 おいしいのに、どこかしょっぱかった。
「気に入ったなら、またトレイに作らせるが」
「いえ、そんなわけにはいかないんで」
 力なく首を横に振った。
 ジャックのために働かされるトレイに同情、というより、ジャックのためにトレイに頼み事をするレオナを見たくなかった。トレイがレオナに命令されて動くとは思えない。自分のために誰かに頭を下げるなんてこと、あってはならなかった。
「今度、麓でおいしそうな店でも探しませんか」
 返事もできず、何かをねだることもできないジャックは、せめてもと些細な約束を願った。
 レオナは嬉しそうに笑った。

 

 

Twitter投稿2024.12.28

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