これはおいしいお寿司
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No.46
アドベントカレンダー2024
-20日目
朝から寮といわず学園中が慌ただしかった。
それもそのはず、今日からウィンターホリデー。つまり、生徒の帰省が始まる。
ジャックの故郷とレオナの故郷は、会いに行くにはあまりにも距離が離れていた。
鏡が各地方に繋がるのは今日一日のみだから、帰省するなら今日を逃すわけにはいかない。
ジャックは荷物をまとめながら、レオナの部屋を訪れるか迷っていた。
レオナはぎりぎりまで学園を発たないだろうが、きっと帰省の準備でバタバタしているだろうから、アドベントカレンダーのことなぞ忘れてしまっているだろう。
あと五つ、開かなかった引き出しに思いを馳せた。
適当な菓子でも入れて、弟や妹に開けさせてやるのがいいかもしれない。土産の一つになるし、最後まで開けなかったことに未練を抱えてしまうこともない。
なんにせよ、今日はレオナの番だからとアドベントカレンダーはレオナの部屋に置いてきてしまっている。レオナがどうであれ、寮長室には行かなくてはいけなかった。
重たい腰を上げ、レオナの部屋へと向かった。
「先輩、起きてます?」
「……今何時だ?」
「十時っすけど」
「まだ朝じゃねえか」
「もう朝っすよ」
やはりというべきか、レオナは熟睡していた。
「先輩は帰省するんですか?」
「あ? ああ……帰らねえとうるせえ奴がいるからな。ジャックは何時頃に帰るんだ?」
「ラッシュが過ぎた頃に帰ろうかと。昼過ぎとか……」
話しながら、ジャックは机の上のアドベントカレンダーをそっと持ち上げた。
箱は軽かった。
想像はしていたが、やはり今日の分は準備されていなかったようだ。
落胆しないように心を落ち着ける。
「先輩、アドベントカレンダー持って帰っていいっすか。こっからクリスマスの分は弟たちに開けさせてやろうと思ってるんすけど」
努めて明るい声を出す。きょうだい思いで面倒見のよい兄に見えていてほしい。
「えっ」
「えっ?」
と、レオナが素っ頓狂な声を上げた。
「いや、その……」
何やら歯切れが悪い。
「今から今日の分を入れるから、帰ったら開けろ」
そう言い、ジャックに背中を向けてアドベントカレンダーを隠して小声で魔法をかけた。
「家族の前で開けるなとは言わねえが、お前が必ず開けると約束しろ」
「わかりました!」
まさか用意してくれていたとは思わず、声が弾んだ。
レオナに差し出されたアドベントカレンダーを胸に抱きしめる。
中で物の動く音がした。
地元に帰り、家族への挨拶もそこそこに部屋にドタドタと駆け込んだ。
ジャックの部屋は、入学前に片付けたときのまま、埃一つなかった。
荷物をほどいてアドベントカレンダーを取り出す。
一体レオナは何を入れたのだろう。
期待に胸を膨らませ、ゆっくりと引き出しを開けた。
中には小さな箱が入っていた。
取り出すと、当然のように大きくなる。
箱は非常に軽く、振ってみても音はしない。
恐る恐る蓋を開けてみる。
が、中には何も入っていなかった。
この箱になんらかの意味があるのかもしれないが、ジャックには見当もつかなかった。
がっかりして蓋を閉じた。
物を整理するための箱をくれた、と受け取ればいいのか?
そんなに寮の自室は汚かっただろうか。
だとしても、自分で片付けをしたことのないレオナにだけは指摘されたくない。
ため息をつき、だが礼は言わねばとスマホを取り出した瞬間、箱が淡く光り出した。
ぎょっとして危うく箱を落としかけた。
慌てて机に置いて、光る箱をじっと見つめる。
光ったのはほんの数秒で、ふわりと静かに光は消えた。箱の外見に変化は見られず、元のなんの変哲もない箱に戻った。
一体何が起きたのかとなんとなく蓋を開けると、中にオレンジ色のフルーツが入っていた。
何も入っていなかったはずなのに。
咄嗟にレオナに電話を掛けた。
『ジャック――』
「先輩、もらった箱の中に急に何か出てきたんですけど、これ、なんなんですか」
『ああ、無事に作動したんだな。二つで一つの対になっていて、一方の箱に物を入れると、もう一方の箱に転送される仕組みだ。夕飯に出てきた果物をそっちに送った』
「これが……」
『林檎に似た味がする果物だ。よかったら食ってみろ。それで明日は――』
「俺がこの箱に何かを入れれば、先輩のところに届くってわけですね」
『そういうことだ。楽しみにしてるぞ』
電話口でレオナの笑った気配がした。
ウィンターホリデーが終わるまでレオナに会えないと思っていたが、このような形でレオナと繋がっていられるとは想像もしていなかった。今さっき起きたことが信じられず、何度も箱を撫でる。
ふわふわとした心が鎮まらないまま、レオナが送ってくれたフルーツを囓る。
酸っぱい林檎のような味がした。
箱の向こうのレオナに思いを馳せ、どんな暮らしをしているのか想像してみる。きっと帰省してすぐベッドに飛び込んで、夕飯の時間まで熟睡していたに違いない。そして甥を躱しながら夕飯を食べ、皿からこのフルーツを自室まで持ち出したのだろう。
フルーツに齧りつくレオナの口元をうっかり思い浮かべてしまい、慌てて消し去った。
跳ね上がる鼓動に、今日は眠れないことを覚悟した。
Twitter投稿2024.12.29
レオジャク
,
アドベントカレンダー2024
,
SS
2026.1.15
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朝から寮といわず学園中が慌ただしかった。
それもそのはず、今日からウィンターホリデー。つまり、生徒の帰省が始まる。
ジャックの故郷とレオナの故郷は、会いに行くにはあまりにも距離が離れていた。
鏡が各地方に繋がるのは今日一日のみだから、帰省するなら今日を逃すわけにはいかない。
ジャックは荷物をまとめながら、レオナの部屋を訪れるか迷っていた。
レオナはぎりぎりまで学園を発たないだろうが、きっと帰省の準備でバタバタしているだろうから、アドベントカレンダーのことなぞ忘れてしまっているだろう。
あと五つ、開かなかった引き出しに思いを馳せた。
適当な菓子でも入れて、弟や妹に開けさせてやるのがいいかもしれない。土産の一つになるし、最後まで開けなかったことに未練を抱えてしまうこともない。
なんにせよ、今日はレオナの番だからとアドベントカレンダーはレオナの部屋に置いてきてしまっている。レオナがどうであれ、寮長室には行かなくてはいけなかった。
重たい腰を上げ、レオナの部屋へと向かった。
「先輩、起きてます?」
「……今何時だ?」
「十時っすけど」
「まだ朝じゃねえか」
「もう朝っすよ」
やはりというべきか、レオナは熟睡していた。
「先輩は帰省するんですか?」
「あ? ああ……帰らねえとうるせえ奴がいるからな。ジャックは何時頃に帰るんだ?」
「ラッシュが過ぎた頃に帰ろうかと。昼過ぎとか……」
話しながら、ジャックは机の上のアドベントカレンダーをそっと持ち上げた。
箱は軽かった。
想像はしていたが、やはり今日の分は準備されていなかったようだ。
落胆しないように心を落ち着ける。
「先輩、アドベントカレンダー持って帰っていいっすか。こっからクリスマスの分は弟たちに開けさせてやろうと思ってるんすけど」
努めて明るい声を出す。きょうだい思いで面倒見のよい兄に見えていてほしい。
「えっ」
「えっ?」
と、レオナが素っ頓狂な声を上げた。
「いや、その……」
何やら歯切れが悪い。
「今から今日の分を入れるから、帰ったら開けろ」
そう言い、ジャックに背中を向けてアドベントカレンダーを隠して小声で魔法をかけた。
「家族の前で開けるなとは言わねえが、お前が必ず開けると約束しろ」
「わかりました!」
まさか用意してくれていたとは思わず、声が弾んだ。
レオナに差し出されたアドベントカレンダーを胸に抱きしめる。
中で物の動く音がした。
地元に帰り、家族への挨拶もそこそこに部屋にドタドタと駆け込んだ。
ジャックの部屋は、入学前に片付けたときのまま、埃一つなかった。
荷物をほどいてアドベントカレンダーを取り出す。
一体レオナは何を入れたのだろう。
期待に胸を膨らませ、ゆっくりと引き出しを開けた。
中には小さな箱が入っていた。
取り出すと、当然のように大きくなる。
箱は非常に軽く、振ってみても音はしない。
恐る恐る蓋を開けてみる。
が、中には何も入っていなかった。
この箱になんらかの意味があるのかもしれないが、ジャックには見当もつかなかった。
がっかりして蓋を閉じた。
物を整理するための箱をくれた、と受け取ればいいのか?
そんなに寮の自室は汚かっただろうか。
だとしても、自分で片付けをしたことのないレオナにだけは指摘されたくない。
ため息をつき、だが礼は言わねばとスマホを取り出した瞬間、箱が淡く光り出した。
ぎょっとして危うく箱を落としかけた。
慌てて机に置いて、光る箱をじっと見つめる。
光ったのはほんの数秒で、ふわりと静かに光は消えた。箱の外見に変化は見られず、元のなんの変哲もない箱に戻った。
一体何が起きたのかとなんとなく蓋を開けると、中にオレンジ色のフルーツが入っていた。
何も入っていなかったはずなのに。
咄嗟にレオナに電話を掛けた。
『ジャック――』
「先輩、もらった箱の中に急に何か出てきたんですけど、これ、なんなんですか」
『ああ、無事に作動したんだな。二つで一つの対になっていて、一方の箱に物を入れると、もう一方の箱に転送される仕組みだ。夕飯に出てきた果物をそっちに送った』
「これが……」
『林檎に似た味がする果物だ。よかったら食ってみろ。それで明日は――』
「俺がこの箱に何かを入れれば、先輩のところに届くってわけですね」
『そういうことだ。楽しみにしてるぞ』
電話口でレオナの笑った気配がした。
ウィンターホリデーが終わるまでレオナに会えないと思っていたが、このような形でレオナと繋がっていられるとは想像もしていなかった。今さっき起きたことが信じられず、何度も箱を撫でる。
ふわふわとした心が鎮まらないまま、レオナが送ってくれたフルーツを囓る。
酸っぱい林檎のような味がした。
箱の向こうのレオナに思いを馳せ、どんな暮らしをしているのか想像してみる。きっと帰省してすぐベッドに飛び込んで、夕飯の時間まで熟睡していたに違いない。そして甥を躱しながら夕飯を食べ、皿からこのフルーツを自室まで持ち出したのだろう。
フルーツに齧りつくレオナの口元をうっかり思い浮かべてしまい、慌てて消し去った。
跳ね上がる鼓動に、今日は眠れないことを覚悟した。
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