これはおいしいお寿司

No.58

リップ

-同じ色がいい

 化粧はポムフィオーレ生の専売特許ではない。
 スカラビア生は太めのアイラインを引いているし、ハーツラビュル生なんかいつでもどこでも顔面によく目立つスタンプをしている。本当にスタンプかどうかはさておき。
 NRC生なら誰でも化粧を学ぶわけで、サバナクロー生は普段化粧をする機会が少ないというだけだ。
 サバナクロー生にだって、化粧に興味がある生徒はいるのである。

 ジャックは購買部に並ぶ、化粧品のコーナーを覗いていた。
 ファンデーション、アイシャドウ、チーク、色とりどりのパッケージが並んでいる。
 学生にも買いやすいプチプラばかりだが、ブランドものに負けない品質の良さが売りである。
 その中でもジャックはリップの棚をじっくりと見ていた。
 リップと聞いて真っ先に思い浮かべる赤やピンクだけでなく、生徒それぞれの肌色に合わせたヌーディーな色も一通り揃っている。
「どれだ……」
 テスターを手の甲に塗ってみて、これでもないあれでもないと首を捻る。
 なんとなく欲しい色は決まっているが、手の甲に塗ってもさっぱりイメージが沸かない。
「ジャック、何を探しているんだ」
 手の甲が色で溢れて肌の色がわからなくなった頃、不意に声をかけられた。
 パッと顔を上げると、呆れた顔のレオナが隣に立っていた。
「レオナ先輩、こんにちは。その、新しいリップを買おうかと思って」
 ジャックはレオナの唇を見た。
 ほどよく潤ったきれいな唇だ。
 レオナの肌の色より少し濃く、触れてみたくなる色だ。
 この色のリップが欲しい。
「リップなんざ入学式のときに買ったやつが残っているんじゃねえのか? 大して使っていないだろう」
 レオナの言うとおり、式典服のときにちょろっと塗るためのリップはまったく減っていなかった。
「それはそうなんですが」
「プライベートで使うのか? どの服に合わせるんだ」
 気まずいから早く立ち去ってほしいのに、レオナはなぜかぐいぐい質問をしてくる。
「外にはつけていかないんで、色だけ欲しくて……」
「人に見せるわけでもないのに、どうして化粧をするんだ?」
「……くて……」
「なんだ?」
 小さく呟くと、絶対聞こえているはずなのにレオナは小さな耳をぴくぴく動かして、もう一度言えと言う。
 なんて意地の悪い先輩だ。
「……レオナ先輩のリップがきれいだから、同じのが欲しくて、って言ったんです。これでいいっすか!」
 ジャックは腹立ち紛れに語気を強めた。
「で、いつも使ってるのはどこのやつっすか。購買のじゃないと思うんですけど。色味を教えてくれませんか。似てるやつ探すんで」
 恥ずかしいから言いたくなかったのにと、唇を尖らせてしまう。
「今塗っているやつか? 購買で買ったリップだ」
 レオナは自身の唇を指でなぞり、にやりと笑った。
「え、本当ですか」
「ああ。確かこっちにあった」
 ジャックが目をぱちくりさせると、レオナは手招きをして別の棚へ歩いて行く。
 そして歩いた先で指差したのは。
「薬用リップ、だ」
「乾燥、皮むけ、口角の傷に強い……は?」
 誰もが持っている一般的なリップクリームだった。
「お探しのリップはこれだが……テメェも持っているだろう?」
「持ってますけど、でも、俺じゃそんな色には」
 レオナはポケットから店頭に並んでいるものと同じリップクリームを取り出し、ジャックに見せつけるように自身の唇に塗った。
「テメェもイイ色をしているのにな」
 リップを塗り直したレオナの唇は艶があり、ジャックは唇から目を離せないまま、思わず生唾を呑み込んだ。
「お前が褒めるから塗りすぎたじゃねえか」
 レオナの手がジャックのおとがいにかかる。
 そのまま唇を親指がなぞられる。
「俺と同じリップ、分けてやる」
 ジャックは誘われるがままに顔を近づけ、そっと潤いすぎた唇に触れた。




Twitter投稿2025.8.15

レオジャク,SS

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