これはおいしいお寿司

No.6

釣り、キャンプ、キャンプファイヤー

–釣り

 堤防に突っ立ち、ぶるりと身を震わせる。真っ赤な指先は、武者震いだと言い訳もできない程にしきりに動いていた。本来ならば暖かいポケットでぬくぬくしていたはずなのに、と体を張った抗議にも見えた。
 喉からなんとも言葉にし難いうなり声を絞り出す。
 なんだってこんな寒いのにわざわざ外に連れ出した。
 歯を鳴らし――それは威嚇のつもりで震えているだけだったかもしれない――、相手を見やる。
 視線の先の彼は寒い寒いと言いながらも楽しそうに海を覗き込んでいた。
「レオナ先輩の鼻水、氷柱になってます!」
 誰のせいだと喉笛に噛みついてやりたかったが、口を開けると内臓まで凍りついてしまいそうで唸るしかできなかった。決して、鼻を真っ赤にしながらも豪快に笑うその姿に、寒さなどどうでもよくなったわけではない。

 二人は真冬の海で釣りをしていた。
 なんだってこんな寒いのに。
 ああそうだ、冬にしかできないことをしたくてジャックに案内させたんだった。
 寒いと元気がなくなる百獣の猫は、自分が言い出したことに激しく後悔していた。
「ジャック、おい」
 威厳もへったくれもなく、凍りついた喉から声を絞り出す。
「なんすか」
 犬は喜び庭駆け回り――とどこぞの草食動物が口ずさんでいた歌が浮かんだ。
「今が旬の生き物がいるんで早く釣れるといいですね」
 とてもではないが、置き竿をして暖かいところで待機しようとは言えなかった。
「あー、その、そうだな」
 俺の声が壊れかけのラジオになっていることにいつ気づくんだ。
「それでだ。明日は何をする予定だ」
「ロッジの裏が山になってるんでスキーでもしようかと。良い感じに積もってるとオーナーから聞きました」
 ただでさえ寒いのに!
 体を全力で震わせ、全身で寒いことをアピールする。これでも外に連れ出すのかと。そんなに眩しい笑顔を向けられても、寒いことに変わりはない。
「……俺は寒い」
 どうにかかっこつけて断ろうとして、寒さでやられた凍結脳はたどたどしい言葉しか出力してくれなかった。
「あ、そうでしたね。あんまり寒さには慣れてないですよね。忘れてました」
 お前の憧れの先輩のことをどうしたら忘れられるんだ、そんなに寒いとこが好きなのか、もう憧れてないって言うのか。
「も、なんでもいいからよ、ロッジ帰ろうぜ俺もう無理」
 そろそろ上顎と下顎が凍り付きそうだ。
 心持ち唇をとがらせ少しばかり尻尾を垂らした後輩に、罪悪感を覚える余裕はもはやなく。不承不承頷いたのを確認するや否や大急ぎで後片付けを始めようとした。
 が。
「あ、せんぱ、待って待って引いてる引いてる」
 突然ジャックが声を上げ、レオナの竿を指差す。
「あ、わ、じゃ、おら引け引け」
「あんたが引くんだよ!」
「あわ、おいなんかいるぞ!」
「釣れたんだから当たり前だろうが、ってカレイじゃないすか! この時期少ないんで貴重なんですよ」
 わあわあ騒ぎながら竿を引き上げる。
 きらきらとした金色に見つめられ、ほんの少し、鳩尾の上あたりがぬくい。
「最後の最後で釣れるんてやっぱりレオナ先輩はすごい」
 なんの努力もしていないのに。
 運も実力のうちだとでも言うのか、それでも悪い気分にはならなかった。
 嘘偽りのない尊敬の眼差しを、こいつから浴びせられるのは自分だけがいい。
「先輩、ロッジの庭にキャンプファイヤーの道具あるんでそれで焼きましょう」
「それは焚き火だろうが」
 ロッジに戻る道で、モコモコとした手の甲同士が時折ぶつかる。
 手袋がいらなくなる頃には、自分より大きなその手を握りしめられるといい。
 久しぶりに神のような何かに祈った。

 

 

FF14でオーシャンフィッシング中のフォロワーからもらったお題で三題噺
Twitter投稿2023.2.23

レオジャク,SS

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